枯野火打「君とタコパ@深夜3時」

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「なんでなの?」
もっともな質問だった。でもわたしには答える術がなかった。自分でも理由がわからない。わたしにできるのは箸の先でたこ焼きをくるっと回転させることだけだ。
「なんで毎回粉ものなの?」
ニシちゃんがグラスにビールを注ぎながら訊ねる。たぶん2本目か3本目だろう。「ザルってやつ? いくら飲んでも酔わないんだよねー」と前に言っていた。羨ましい。わたしは下戸で、お酒をひとくち飲んだだけですぐ気分が悪くなってしまう。
「わかんない」鉄板から立ち上る熱気に顔をしかめる。「なんかね、つくりたくなるの」
「……まあ、いいけど。お好み焼きでもたこ焼きでも、もんじゃでも。いんだけどさ、夜の2時とか3時に呼び出すのやめてくれない?」
「それは、はい。ごめんなさい」
「頼むよー。ねえ、そろそろ良さげじゃない?」
差し出されたお皿にたこ焼きを乗せる。ニシちゃんは「待ってましたー!」と喜色満面の笑みでソースとマヨネーズをたこ焼きにかけ、青のりとかつおぶしをまぶした。
「いただきます」
わたしはウーロン茶で、ニシちゃんはビールで乾杯する。部屋の時計は深夜3時22分を指していた。タコパをするにはたしかに非常識な時間だった。こんな無茶苦茶な呼び出しに応じてくれるのはニシちゃんくらいだ。ニシちゃんは大学時代からの友人で、いま彼女は漫画家として生計を立てている。ほとんど昼夜逆転の生活がつづいていて、寝るのはだいたい朝方らしい。
「いまはどんなの書いてるの?」
「んー?」ニシちゃんはたこ焼きを飲み込むと「失恋するたび粉ものつくる女の子の話」
「ええー」
「いいじゃん。いっつもあんたの無茶ぶりに付き合ってあげてんだから。ネタくらい寄こせ」
「うっ…… ご無体な……」
ニシちゃんが笑う。「ご無体って、江戸の人かよ」と大口を開けて笑い出す。そんな彼女を見て、わたしはやっと思い出した。失恋するたび粉ものをつくるのは、大学時代、お好み焼きを嬉しそうに食べる彼女の笑みを見たからだった。どうしようもなく疲れ、傷ついて、わたしが最後にすがるのは彼女の笑顔だった。
「ま、次はいい人見つけるんだね」
ニシちゃんが唇の端にマヨネーズをつけたまま言う。
「うん」わたしは彼女の口元に手を伸ばした。「そうだね」
指先がマヨネーズに触れる。くすぐったそうにわたしを見るニシちゃんに、わたしは「がんばる」と微笑んだ。

参考 枯野火打作者自サイト
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