織本コウ「家庭教師の女」

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お姉ちゃんの一番が私じゃない事に気が付いたのは先月の事だった。
受験シーズンらしくこの辺りで一番頭の良い大学に行ってる人を家庭教師として呼ぶ事に最初は反対してたお姉ちゃんだったけどすぐに反対はしなくなった。

私にとって家庭教師の第一印象はキラキラしてるモデルさんだった。
キレイで良い匂いがして大人の女性って感じ。
噂通り勉強も出来るし教え方が上手だってお姉ちゃんがすごく喜んでいたのを今でも覚えてる。

毎日遊んでくれていたお姉ちゃんは気が付けば家庭教師の人の話ばかりするようになった。
なんだか胸がチクチクして家庭教師の話を聞くたびに家庭教師が嫌いになっていった。

「ちょっと距離が近いよ……」

大人の女性は大胆になるってアカリちゃんから聞いていたけどここまでとは。
家庭教師がお姉ちゃんを後ろから抱きしめるように勉強を教える姿に胸がチクチクした。
そんな二人の姿を見るのが辛くなって部屋に戻る事にした。

「やっぱりお姉ちゃんって大人な女性が好きなのかな……」

ドレッサーの前に座ってみたのはいいけど家庭教師と比べてしまい自分の幼さを自覚させられてしまう。
頬を膨らませ、ドレッサーに置かれたリップを手に取る。
ママに内緒でお姉ちゃんが買ったオレンジ色のリップは家庭教師が来る日に決まって嬉しそうに塗っているのを私は知っていた。

「これを塗ったら私も大人になれるかな……」

キャップを外し、そっと唇をなぞる。
鏡に映る自分の顔を見て眉をひそめる。

「……なんかへん――」
「やだ! ミカちゃん可愛い!」

背後からの声に心臓が飛び出しそうになった。

「へ? え?」

振り返ると家庭教師の女が部屋の入口に立っていた。

「あ、ごめんね! 可愛くてつい……毎日見てるけどミカちゃんがお洒落してる所見たことなかったから」

リップを塗っていた所を見られていたのだと分かると急に恥ずかしくなった。

「望美先生ー!」
「時間切れかぁ……ミカちゃん、また後でね」

そう言って家庭教師の女が戻っていき、恥ずかしいやら悔しいやらの気持ちが入り交じりリップをぐしぐしと拭った。

「ほんとにやな女……」

作家コメント
初めてのお洒落アイテムはリップだった気がします
参考 織本コウ作家Twitter
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