えいな「小春日和のこんな日に」

大好きなお姉ちゃんの結婚式。
真っ白なドレスに、にこにこ笑顔のお姉ちゃんとお義兄さん。それがあんまり幸せそうだから、私も嬉しくなってしまう。チャペルから続く中庭、さっき誓いのキスをしたばかりの二人が出てきて、みんなで記念写真を撮った。
お母さんが親戚の伯母さん達と長話を始めてしまったので、私は中庭を好き勝手に歩き回ってみる。スキップすれば、制服のブレザーの裾がひらりと翻った。私もあと何年かして学校を卒業したら、周りのお姉さん達みたいに綺麗なドレスを着れるようになるのかな。
今日はとってもいいお天気だ。冬の結婚式だなんて、寒さが苦手なお姉ちゃんは大丈夫だろうかと心配していただけれど、今は柔らかい日差しが辺りを包んでいる。花壇に咲いているマーガレットもみんなお日さまの方を向いて、どこか笑っているように思えた。
「素敵な小春日和だな~」
言いながらマーガレット達に笑顔を返す。
小春日和っていう言葉、私好きなんだ。
〝春〟っていう字がついてるけど、実は11月~12月頃のうららかな陽気を表す言葉なんだよね。実は私の名前、小春って言うんだけど、小さい頃はどうして冬生まれの私が小春? って思ってた。でも冬の間、少しだけポカポカするひとときはとっても素敵だから。そういう意味なんだと知ってからは、小春日和も、自分の名前もすごく好きになった。
そろそろみんながいる方に戻ろうか。振り返ると、すぐそこで鋭い視線がギロリとこちらを見ていて、悲鳴を上げそうになった。
「小春日和、ね……嫌だわ」
そう言ったその人のことを、私は知っていた。深雪さんだ。
深雪さんは私の従姉なんだけど、年も離れているから実はそんなに話したことはない。物静かな人だし、なんだか近寄りがたい感じもあるし。
その深雪さんが今、私に話しかけている、のかな? いきなりのことで頭が追い付いていない。何か返事をした方がいい? でも何を?
分からないけれど、とりあえず思いつくまま話してみた。
「小春日和、嫌い、なんですか?」
「そうね。好きではないわ」
「ど、どうして? すごく寒い冬に、たま~にあるあったかい日、私は嬉しくなるんですけど」
深雪さんはその長い睫毛を微かに揺らして視線を落とすと、そうね、と言ってしばらく考えている様子だった。そうしてゆっくりと顔を上げ、淡い水色の空に浮かんでいる冬の太陽を仰ぎ見た。その耳元で鳥の形をした銀色のピアスが揺れる。それがとてもきれいで、私は思わず見とれてしまう。
「確かにあったかいわね。でも、やっぱりどうしたって、本当の春じゃないから。すぐに過ぎ去ってまた厳しい冬に戻ってしまう。それが悲しくて嫌いなの、私」
それだけ言うと、深雪さんはチャペルの方まで戻っていった。

この結婚式の前に一番最近深雪さんの姿を見たのは今年の4月のことだ。季節外れの冷たい雪が降る日だった。その日も今日みたいにたくさんの親戚が一堂に会していて、私も制服を着て参列していたけれど、今日と違ってみんな暗く沈んだ顔をしていた。
その日は春香さん――深雪さんの妹さんのお葬式だったから。
小さい頃から病気がちだった春香さんは、医師に宣告されていたより5年も長く生きたけれど、とうとうその人生に幕を下ろした。
真っ黒な服に身を包んだ深雪さんは、いつもと変わらず落ち着いて毅然としていたけれど、最後のお別れのとき、棺の小窓から見える、安らかに眠る春香さんに縋りつくようにして泣いた。それはあまりにも痛々しい慟哭でだった。
そして深雪さんの長い睫毛を濡らす涙はあまりにも透き通っていて、ダイヤモンドみたいにきらきらしていて、なぜだか私もぎゅうっと胸を締め付けられたように苦しくて泣いてしまっていた。

――本当の春じゃないから。
さっきそう言った深雪さんの瞳は暗く沈んでいて、それでいてどこか覚束ずに揺れていた。まるで失った〝春〟を探しているように。
「深雪さん、嫌いなんだ、小春日和……」
ぽつりと漏らした自分の言葉に、私は自分で落ち込んでしまう。
小春日和は本物の〝春〟にはなれない。だからきっと深雪さんの心を温めることはできないのだろうから。
ひゅるりと風が通り抜けていった。それは間違いなく冬の冷たい風で、柔らかな日差しをすぐに飲み込んでしまった。

その時感じた胸の苦しさ、彼女に対する切ないその気持ちが何なのか、私が自覚するのは、もう少しだけ先のお話……。

参考 えいな作者pixiv
無断転載・複製・翻訳を禁止しています!
当サイト内のすべての絵と文の転載はご遠慮ください。 無許可の転載、複製、転用等は法律により罰せられます。発見した場合は使用料を請求させていただきます。

コメントを残す