華日「整頓された箱庭で」

0

人は見た目によらない。
そんな言葉があって、まあ言葉通りの人物も多かれ少なかれいるのだろう。
だけれど大概の人は見た目通りである。怖そうな人はやっぱり怖いし、不潔感のある人はだらしない。人格というものは、図らずとも見た目に反映されてしまう物なのだろう。
たぶんそれが自然だ。
「出席番号二十四番、次の段落から読んでください」
「はい。下人は、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて――」
呼ばれた彼女は音もなく立ち上がり、ゆったりと朗読を始めた。一切着崩していない紺の制服と、肩の高さで揃えられたおかっぱ頭の後姿は、まるで自分の後姿を眺めているようだ。いや、彼女だけではない。恐ろしいほど規律の整えられたこの教室では誰もが変わらずその姿をしている。違いがあるとすれば輪郭や背丈くらいの物だ。担任の教師であっても出席番号が無ければ全員を判別することは難しいだろう。
まぁ、その必要もないのだろうけど。
姿だけでなく細かな所作から発声や表情、思想まで厳しく指導され、沢山の私は六年かけて誰かが好む形に整えられる。朝から晩まで様々な教育を受け、放課後は寮に戻って予習と復習に明け暮れる。食事だって同じメニューを同じ量だけ、学んだ通りに咀嚼し飲み込む。もし悪戯に出席番号を入れ替えたとして誰も気がつかないし、困らないだろう。
それに抵抗心を抱いていたのは最初の半年だけだった。そんな生活が四年も続けば、むしろ心地よく、不安や不満とは無縁の日々を過ごしていた。
「そこまで。出席番号二十五番、次の段落から読んでください」
「はい」
過ごしていたはずだったのに。
「下人には、もちろん何故老婆が死人の髪を抜くのか分からなかった――」
誰とも違わない立ち姿で、誰とも変わらない音読なのに、彼女を見ていると胸が高鳴る。彼女が読めばおどろおどろしい文章も恋愛小説の様に感じてしまう。
温かいのに、怖くて仕方がない。
ポケットに潜めた学校指定のハンカチに付いた赤い染みが、私を私に戻してしまった。きちんと整えられてきた私が乱れていく。沢山の私が別人に変わっていく。
きっと私は、見かけによらない。

この作品が気に入ったら、ギフトを贈ってみませんか?15円~贈れます❤
0

コメントを残す