久良伎「その手でなければ」

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「これ、やだ」
私の手を包む手袋を握りながら、ひーちゃんは不満の声を上げた。


十一月に入り、ひんやりとした空気に身体を強張らせる夜が増えてきた。ついこの間まで、コートを身につけなくても外を歩けていたのに、今ではもう、手袋が必要になるほどの寒さになっている。

「あ、ごめん。ちっちゃい子扱いみたいなの、嫌だよね」
姉夫婦の娘であるひーちゃんは、学校への通学の便宜から、今は私の住む部屋から通っている。私が仕事から帰ってくると、律儀にいつも出迎えてくれて、おかえりなさいという言葉をかけてくれる、とっても優しい子。ぱたぱたと足音を立ててこちらに近づいてくる姿が可愛くて、おかえりなさいと言ってくれた後の微笑みが愛らしくて、ただいま、という言葉と共に、私はいつも彼女の頭を撫でてしまっていた。

ただ、前まではっきりと嫌とは言われなかったんだけど……。

「ううん、そうじゃなくて……」
「え?」
今まで無理に我慢させてしまっていたのかと申し訳ない気持ちが込み上げていたが、どうやら撫でること自体に抵抗を示したわけではなかったらしい。
「これ」
ぐい、と手袋が引っ張られる。

「ちゃんと、手がいい。おねえさんの手のひら」
「あ……」
思いがけない返答に、言葉を詰まらせる。撫でられるのは良くて、でも手袋したままでは嫌で、だから……
「あぁ、手袋ね。ごめん、今外すね」
ようやく思考が追いつき、私はそう答える。そして、右手の手袋に左手をかけ、それを外そうとした。けれども、そのとき、

「ん」
ひーちゃんは私の手を再びつかみ直し、なぜかそれを自分の口元まで運んだ。そして、あろうことか手袋の指先のところをはむっと咥え
「んぅ……っふ……」
お顔を後ろに引きながら、するするとそれを脱がしていった。

「ちょ、ちょっと、どうしたのっ」
突然の行動に驚いて、思わず声がうわずってしまう。えぇと、いや、いったい誰がこんなことを……。
「おねえさんの部屋の……漫画?の中に、あった。好きなのかなって」
アレか。よし、捨てよう。いや不健全なやつじゃないけども。良くない良くない。


「ひーちゃん、それもうやっちゃだめだよ」
心臓に悪いから。いや姉が今ここにいなくてよかったよ……。

「じゃあ、ちゃんと手でしてね」
「はい……」

「ではどーぞー」

また、いつものナデナデに戻る。
私の胸の中は、落ち着かないままだ。

作家コメント
手袋外すときの音が好きです。
参考 久良伎作家Twitter
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