荒井チェイサー「夕日とアコースティックギター」

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私とカスミはアコースティックギターを持って夕日の光の落ちる音楽室で向き合う。
「弾いてみて」
カスミが自分もギターを構える。
「いくね、ワン・ツー・スリー・フォー」
1音1音確かめながら2人で弾いていく。
校舎の片隅にある音楽室。
そのおかげで、周囲からの雑音は少ない。
私とカスミの旋律が重なって1つの作品になるのが、うれしい。
けれども、途中で止められた。

「アヤ、またFのコードの音が変」
「えっ」
「ちゃんと押さえないと」
「押さえてるはずなんだけど」
「『はず』じゃダメなんだよ。それに音に出てるってことはちゃんとできてない証拠」
「うー……」
「なに?」
「『わかってる』って言いたいけど、それいうと『わかってるならやれ』って言われるでしょ?」
「よくわかってるじゃない」
「だから葛藤してるの、なに言おうかなって」
「なにも言わずにやるだけよ」
「はーい」
「素直でよろしい。はい、もう一回」

もう一度音が始まる。
私はこの時間が好きだった。
無駄な会話もするけれど、音楽で会話ができていた。
カスミのことが好きとか嫌いじゃなくて、この瞬間が幸せだった。

「ふー……」
1曲全部弾き終えて、ため息をつくとカスミが拍手をした。
「いい出来だったよ」
「あー、指痛いよ」
「じゃあ、明日はやめておく?」
「何言ってるの、やるに決まってるじゃん」
その言葉に、カスミが「ふふっ」と笑った。
濃密な時間が終わり、ギターをいつもの保管場所に戻す。
カスミは眼鏡をかけて、くいっとあげた。
「帰りましょ」
「ねえ、なんでギター弾く時は眼鏡外すの?」
「……ミスしそうだから」
「私のやり方が下手ってこと?傷つくなあ」
「いや、そうじゃなくて……」
もごもごするカスミを見るのは、初めてだった。
顔を近づけて、ジーっと見つめる。

「じゃあなに?」
「うぅ……言うわよ」
ふーっと息を吐いて、カスミが話す。
「ギターを弾いてるアヤがキレイでかわいいからだよ……はい、おしまい!」
真っ赤になってそっぽを向くカスミ。
私もその言葉に真っ赤になってしまった。

その日の帰り道、どちからともなく手をつないで一緒に帰った。
濃密な幸せが手から共有されるかのようだった。

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