えいな「君と食べるガレットは」

久しぶりに会う有紗は長かった髪を肩口で切り揃えていて、ちょっと大人っぽく見えた。切ったんだねって言うと、もう結婚式も終わったしねと笑う。彼女が人妻になってから3ヶ月が経とうとしていた。純白のドレスに身を包んだあの姿を見てから、もう会うこともないだろうと思っていたのに、最近何かにつけて有紗の方から連絡してくる。どうやら旦那さんの仕事が忙しくなってきて寂しいらしかった。
有紗が行きたいと言った人気のガレット専門店はまだ正午を回っていないのに十分混み合っていた。注文を終えてお冷を一口飲んでから有紗が話し出したのは、やっぱり旦那さんの愚痴だった。
「前髪の分け目さ、変えたら似合ってないからやめとけとか言ったんだよ、あの人」
むぅと唇を尖らせる彼女に、そうなんだ、と私は適当に相槌を打つ。結局旦那がいいと言った分け目に落ち着いてるあたり、大したことじゃないのは明白だ。ノロケもいいとこだなと思う。結婚する前からずっとこうだった。彼にこんなこと言われた、最悪だったとか色々言ってたくせに、結局結婚したわけで。学生時代から結婚直前まで心身ともに〝慰めていた〟私に対してそういうことを言えるわけで。
もし今日このあとホテルに誘われでもしたら、さすがに殴った方がいいだろうか?
ぼんやりそんなことを考えていたら頼んだランチセットのガレットが運ばれてきた。季節の野菜とベーコン、その上に温玉が乗っかっていて、どう見てもおいしそうだ。有紗はそれをスマホで撮影しながら言った。
「旦那がさ、そばアレルギーなんだよね。だからここ、来てみたかったけどなかなかタイミングがなくて」
ああ、そうかと思った。彼女にとって、私の存在価値は〝旦那とはできないことができる〟ことにあるのだ。虚しいのにどこか嬉しくも感じている自分が嫌になる。
実際、それは文句なしにおいしかった。そば粉特有の香ばしさが鼻まで抜ける。有紗の旦那はこれを食べられないんだな。嬉しそうに食べる有紗のこの顔も見られないんだ。卑しい気持ちが胸の中を占拠していく。
「食べに来られて良かったよ~。私、一人でお店入るの無理だしさ、夕美が付き合ってくれるからこういうとこ来れるし、ほんとありがとね、いつも」
彼女はふふっと笑った。どことなく含みのある悪い笑みだった。
なんだそれ。なにが「ありがとね、いつも」だよ。自覚があるんじゃない、私の気持ちを利用してること。ずるいな。反吐が出そうだ。
だから私も同じような顔を浮かべて言ってやった。
「ううん。有紗のおかげで私もおいしい思いできるし全然いいよ。いつでも付き合うからね」

参考 えいな作家pixiv
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