久良伎「名前じゃなくてもすでに」

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「お願いします……佐野の首に、私の名前を書かせてください!」
「嫌、あっちいけ、ていうか先帰れ」
断られました。今日これで11回目だっけ。

相手の身体に自分の名前を書くことで、その人を縛ることができる。
二週間くらい前から、人の身体に落書きをするという悪戯が学校の中で流行り出した。最初は誰かをからかったりするのが目的だったみたいだったけど、今ではそんな意味を含んだおまじないみたいなものに変化して、カップルの間で密かに行われていた。

「おまじないとか、そういう類、私信じてないし」
そう冷たく言い放ってから、佐野はふいっと視線をこちらから背ける。そして、スクールバグを手に取って今にも椅子から立ち上がろうとしていた。

「私も信じてないしー。そういうんじゃなくてさぁ……」
「じゃあ何?」
むっとした表情でこちらにまた目線を合わせてくれた。うん、ちょっと不機嫌そうな顔も可愛いね、佐野は。好き。思わず頭わしゃわしゃーってしたくなる。
「なんか……佐野が素直に私に名前を刻まれてるっていう……そういう行為自体がいいんだよ、わかる?」
「はぁ? い、意味わかんないし」
「だからぁ、いつもツンツンしてる佐野が従順に、一文字一文字ずつ名前を入れられていくのが可愛いんだってば」
「~~~~っ!」
何か言い返そうと思っても言葉が出ないのか、佐野はただ口をぱくぱくとさせている。

「ね……だめ? 私、佐野のこと好きだから、そうしたいの」
甘えを含んだ声でおねだりをする。苦手な人からしたら反吐が出るかもしれない。でも、存外、佐野にはこれが効くのだ。
「えー……」
「ね、佐野……好き」
「……っ」

それから少しして、はぁ、というため息をついてから
「わ、わかったよ。いいよ、しても」
そう言って、佐野はようやく私の名前を身体に受け入れることを許してくれた。

「あんまり強く押しつけないでよ、痛かったら嫌だし」
「だーいじょうぶ、たぶんくすぐったいよ」
「じゃあほら、はい……」
制服の襟元の生地を引っ張り、それとは反対側に首を少し傾けてくれた。おかげで、色白の首筋がよく見えるようになる。

こんな綺麗な身体を真っ黒なペンで……背徳感がすごい……。

「書くよ」
「なんでこんなへんたいのこと好きなのかな、私……んっ……」
ペンの筆先が彼女の肌の上を這い、不満を呟いていた口を噤ませる。

自分の名前で相手を縛るとかはよくわかんないけど。

私にされるがままなの、すごく可愛いね。

作家コメント
名前書くの良いですよね。
参考 久良伎作者Twitter
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