「アンタたちさ、そこ、邪魔なんだけど」
それは、中学生になってから数日後。
友達と廊下で話していた私に、その人は突っかかってきた。
「なんですか?」
「『なんですか?』じゃなくて、邪魔って言ってんの。わかる?」
その人は、一つ上の先輩。
目つきが悪くて、制服の着方は『いかにも』って感じ。たぶん、ギャルとかそういうの。
ギロリと私を睨む先輩に、一緒にいた友達は怯えてた。
――でも、私は怯えてなんかない。
「なんで私たちがどけなくちゃいけないんですか。道はあいてるんですし、迂回したらいいと思いますけど」
「ここはアンタたちの廊下なワケ?」
私たちは、先生が通りかかるまでずっと、睨み合い続けた。
「ねぇ、ちょっと待って」
先輩は自分の額を指で押さえながら、いかにも『頭が痛いです』って顔をしてる。
私は先輩の部屋でのんびりとくつろぎながら、先輩のお母さんが用意してくれたオレンジジュースを飲む。
「アタシはさ、アンタがアタシのどこを好きになったのか訊いたよね? なのに、何でアタシたちにとって最悪だったはずの出会いを話始めたワケ?」
「初対面のときに先輩のことを好きになったからですけど……変ですか?」
「あの出会いで? ウソでしょ?」
先輩はヤッパリ、頭が痛そうな顔のまま。……どうしたんだろう、風邪かな?
「あのときの先輩、すごくトゲトゲしててめちゃくちゃカッコよかったんですよ!」
「アタシたち睨み合ってたのに?」
「恥ずかしくて目を逸らしたかったんですけど、先輩が私のことをジッと見つめてきたから……っ」
「そういうシーンじゃなかったと思うなぁ」
理解できないとかなんとか、先輩がぼやいてる。
そんなぼやきに、先輩が一言付け足した。
「まぁ、アンタのそういうワケわかんないところが……アタシは好きなんだけどさ」
私は、思わず息を呑んだ。
――先輩こそ、私のどこを好きになったんですか?
そう訊く前に答えちゃうなんて……先輩は、ズルい。