荒井チェイサー「恋人の左肩」

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「さっちゃんどうしたの?」
「幸子先生って言いなさい」
いつもの会話が繰り広げられる教室で、私の恋人の乃木幸子先生は生徒からいじられていた。
「さっきから左肩近くの絆創膏、ずっとつねってるし」
「あー……昨日虫に刺されてかいてたら血が出てね、それでまだすっごく痒いのよ」
「わかるー、痒いと辛いよね」
「それでつねってる間は痒くなくなるから……ついついね」
そう言いながら、幸子先生は笑って彼女たちの質問攻撃に耐えている。
私はそれを見ているだけだった。

あの絆創膏の下には傷なんてものはなくて、あるのはキスマークだ。
昨日の夜、私が付けた。
先生は付けたことを少し怒っていた。

「こんな目立つ場所に付けたら誰かに何か言われるでしょう?」
「私たちの関係がバレるわけにはいかないの」
「気を付けて」

でも、そう言われても先生。
全然響きません。
だって、先生の顔は怒ってるくせにどこかうれしそうで、声も全然怖くない。
私がそれを付けた理由もわかってて、全部受け止めてくれているっていうのが丸わかり。

「先生が好きで、独り占めしたいから付けました」
そんなこと、言いません。
でも、伝わってますよね。
顔がそう言ってますもん。

だから私は先生をギュッと抱きしめて、強く唇を押し付けた。
体温は高くて、体が触れ合う場所が多くなれば多くなるほど、自分たちが一つになった気がした。
こんな時だけ、先生は私よりも立場が同じになる。
指導も、教育もしない、ただの乃木幸子になる。

「好き、大好き……幸子」
そう言うだけで、体温が上がっていく。
私もこの人のことが、恋しくてたまらなくなって、もっと一つになりたくなる。
肌があるのがもどかしいくらい。


「川瀬さん」

いじりから解放された幸子先生が私に声をかけた。

「もう下校時刻だよ?」
はいはい、わかりましたよ。
帰りますとも。

でもこのまま帰るだけなのは寂しいから、私は幸子の方を向いて自分の左肩を指さして、キスをする真似をしておいた。

「バカ」
声を出さずにそう言う幸子が、いっぱいいっぱいかわいかった。

参考 荒井チェイサー作者Twitter
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