雁屋雪祢「ドリーミングガール」

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その女の子は、パステルカラーの花畑の真ん中で踊っていた。私はそれを見つめていた。
女の子がくるくると回るたび、白いワンピースが翻る。巻き起こる風に、足元の花々が揺れる。雨のように散る花びら。淡く可愛らしい色で埋め尽くされたその花畑は、どこまでも続いており、そして見たこともない花がたくさん咲いていて、彼女にとても似合っていた。
青い空に、女の子の栗色のロングヘアがよく映える。パーツのひとつひとつが丸いためか幼く見えるのに、すっと通った鼻筋と薄めの瞼がどこか影を帯びたような大人っぽさも醸し出している。
不思議な女の子だ。こんな場所でひとりで、実に楽しそうに踊っているのだから。
ふいに、私と彼女との視線が絡んだ。彼女は初めから私のことを、唯一の観客として認識していた。だから、それ以上はないと思っていた。なのに、彼女は、あろうことか踊るのをやめ、私に近づいてきて――まるで、蝶の羽でも背に生えているかのような軽やかさで――こう言った。
「この子の名前を知ってる?」
女の子は、私の右のつま先あたりに咲いていた花を指差した。お砂糖菓子みたいな――さらに言うと、こんぺいとうみたいな甘い声だった。
私がふるふると首を横に振ると、彼女は楽しそうに目を細め、私の足元にしゃがみこんだ。「この子はポピー、この紫のはアネモネ、こっちはアルストロメリアで、このピンクのはネリネ」私もしゃがみこんで、彼女の声に真剣に耳を傾ける。
こんなにたくさんの花の名を知っているなんて、素敵な女の子だ。そんなことをぼんやりと考えていると、ふいに、彼女はひとつの白い花を千切って、私に差し出した。
「これはダイヤモンドリリーよ。覚えておいてね」
頷けば、女の子はそこら中の花よりもずっとまばゆい笑顔を咲き誇らせた。

と、いうのが今朝の夢の話。
こんなにも鮮明に夢の内容を覚えていることなんて滅多にないせいか、朝ご飯の時も、登校中も、そして今現在行われている朝のホームルームでも、ずっと女の子のことばかり考えてしまっていた。
あの子は一体、誰なのだろう。まったく知らない可憐な少女。悶々と悩んだところで答えなど出ないのだが、どうにも引っかかってならないのだ。
ぼんやりしながら窓の外を眺め、先生の話は右から左、教室内が少しだけざわめいたのもほとんど無視して青空を眺める。あぁ、そう、今日の空の色は夢の中の景色にとても似ている。
「そんなに外が好き?」
と、ふいに隣から声をかけられ、私は目を丸くした。だって、私の隣は空席のはずなのだ。
だけど、振り向けば確かにそこに机があって、そしてひとりの女の子が、私に向かってにこにこと口角を上げていた。
私はさらに驚いて、中途半端に口を開けたまま硬直し「うそ」と小さく呟いた。
だって、だってだ。そこにいたのは――転校生と紹介され、私の隣の席に座ったその子は――夢の中のあの女の子だったのだ。
「私のこと、ちゃんと忘れないでいてくれた?」
そう言っていたずらっぽく目を細め、その栗色の髪をかき上げる。横髪をまとめるピン留めには、小さな百合の細工がきらりと光っていた。

作家コメント
お花に詳しいおんなのこが好きです
参考 雁屋雪祢作家Twitter
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