羽田宇佐「雨の日は彼女の日」

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彼女は気まぐれで、とらえどころがない。
ふらりとやってきたかと思うと、すぐにいなくなる。適当すぎると彼女に文句を言ったこともあるけれど、月に一、二回しか来ないことも含めてなにも変わらなかった。
まあ、でも。
私には彼女を追いかける術がないのだから、どうしようもない。
行動範囲の差というヤツだ。
私はこの山ならどこへでもいけるけれど、この山からはどこへもいけない。山の守り神なんて厄介な仕事のせいで、動ける範囲が限られている。
一方、彼女はどこへでも行ける。
レンズ雲という雲の一種で、ときどき山の上にやってくる吊し雲。
それが彼女だ。今日は大きなUFOのような形の雲になって、山の上へやってきた。
「あんたが来るから、また雨が降る」
人の形になって下りてきた雲の一部に文句をぶつける。
「これから雨が降るよーって教えにきてるだけなのに」
彼女がふわふわと笑いながら言う。
私のことなどまったく考えていないような態度は腹立たしいが、言葉自体に間違いはない。彼女が来たあとはかなりの確率で雨が降る。それでも、私は言わずにはいられなかった。
「十回のうち二回、三回は降らないこともあるのに?」
「占いなんてそんなもんじゃない? たまには外れることだってあるって」
「あんたのは占いじゃないでしょ」
「まあまあ、細かいことはいいじゃん」
「よくない。これから予定あったのに」
「恵みの雨だから」
「すぐに適当なこと言う」
雨が降っているよりは、晴れているほうが好きだ。でも、まったく雨が降らないというのも困るし、彼女が来ないというのも困る。
ほんのひととき、彼女と会うことができる時間。
それは気に入っている。けれど、本人に伝えたら絶対に調子に乗るから伝えたくはない。
「次、いつ雨降るの?」
彼女が降らせる雨が降る前に尋ねる。
「さあ、次のことはまだわかんないかな」
いつも彼女は適当だ。
それでも、私は雨が降る前から次の雨を待っている。

参考 羽田宇佐作者Twitter
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