あめやゆき「Trick or Treat」

『Trick or Treat!』
ベッドに寝転がって小説を読んでいると、絶賛ハロウィン満喫中の彼女から、そんなメッセージと一枚の写真が送られてきた。
映っていたのは、ゾンビやミイラに囲まれて、笑顔ではしゃぐ、かわいらしい吸血鬼の姿。
楽しそうな恋人の笑顔に、私も行けばよかったかな……なんて少しだけ悔やみつつ、キャンディーの絵文字を送信する。
と、すぐにスマホがぶるりと震えて、着信音が鳴り響いた。
『もっしもーし! 写真見たー? かわいいでしょー!』
通話ボタンを押した途端、甘い声が、静かな部屋に眩しくはじける。
「うん。見たよ。すごくかわいかった」
『でっしょー! 今年はめっちゃ気合い入れたからね! みなみも来ればよかったのに!』
「いや、私は人多いの苦手だし、コスプレとかも似合わないしね」
『えー? そーかな? 試してみたら似合うかもよ! 猫耳とか!』
ねこみみ。
彼女の口から飛び出した予想外の提案に、私は思わず、ぶふっと吹き出した。
「いや、いや、ないから! 私もうアラサーだよ?」
『えー、でもみなみ綺麗系だし、絶対似合うよ! 猫耳!』
「いやいやいや、ナイナイ。そーゆーのは、うりちゃんのがゼッタイ似合うから」
笑いながら、電話越しに首を振る。
背の高い私と違って、背が低くて丸顔で、二つ年下なだけなのに、まるで少女漫画の主人公みたいにかわいらしいうりちゃん。
もし猫耳をつけるなら、自分なんかより、彼女の方がよっぽど似合うだろう。
想像すると微笑ましい気持ちになって、頬がふわりと軽く緩んだ。
『えへへ、そーかな? じゃー来年は猫耳に挑戦しよっかなー……あ、それでさ、この後みなみんち行ってもいい? てか、お泊まりオッケー?』
「んー、一人?」
『うん! 一人!』
「ならオッケ。準備しとくね」
『うぇーい! サンキュー! お菓子もちゃんと用意しといてねー!』
「はいはい。わかってるよ。いたずらされたくないからね」
『さっすがみなみー! じゃ、また後でねー!』
きゃらきゃらと騒がしい声を後ろに、ふっつりと電話は切れて、部屋には再び、静かな時間が戻ってくる。
「……さて、と」
スマホに映ったうりちゃんの写真をしばし眺めた後、体をぐっと起こして、伸びをしながら枕元を振り向いた。
そうして、そこにあるものを見つめて、目元をにやりと不適に細める。
真っ白な枕の傍に置かれている、真っ黒なもの――それは、帽子。童話の魔女がかぶっているような、黒くて大きなとんがり帽子。
――コスプレとかも似合わないしね。
なんて、うりちゃんにはそう言ったけれど、実はこっそり、魔女の衣装を用意していた。
確かに仮装なんて似合わないと思うし、誰かに見られるなんて、恥ずかしい。
だけど、見るのが一人だけなら、それが恋人だけなら、話は別だ。
――お菓子もちゃんと用意しといてねー!
そう言ってくれる彼女のために、もちろん、私はちゃんと手作りのお菓子を用意している。
でも、彼女はどうだろう?
まさか自分がお菓子をねだられることになるなんて、思ってもいないのだろうな……。
一人きりの静かな部屋で、私はそっとほくそ笑み、とんがり帽子を頭に乗せた。
 
Trick or Treat――もしもお菓子がなかったら、どんないたずらをしてあげようかな?

参考 あめやゆき作者pixiv
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