緑の空「初恋」

思えば、あれが初恋だったのかもしれない。
そう思う瞬間は、これまでの人生でたくさんあった。恋をするたびに、その前の恋は恋ではなかったのではないか、そう思えた。好きになっては周りを気にして、諦めた私の恋の残骸。きっと、あんなものは恋ではなかったと思いたいのだろう。
しかし22歳の春。私は桜がよく見える大学の喫煙所で出会った彼女に、これまでの恋が色褪せるような一目惚れをした。
好きになった人に話しかけることすらできなかった自分が、初めて話しかけ、デートをして結ばれる事となった。
初めて好きな人に声をかけられて。デートをして幸せな時間を過ごして。一緒に暮らして。気がついたら10年の月日が流れた。
彼女はいつも素敵で、でも少し弱いところもあって。私は初恋のようにのめり込んで。愛を語り合った日もあった。
ある日、彼女が行った言葉を今でも忘れていない。私が死んでもきっと貴方のそばにいるから。私は死ぬなんて言わないでなんて言った気がする。
32歳の春。ちょうど出会ってから10年の春。桜のよく見える場所にある彼女の墓に花を手向ける。
彼女が好きだった桜の花を墓にお供えし、線香と彼女がよく吸っていたタバコに火をつけて、一口吸ってから一緒にお供えする。
心臓の病気を幼い頃から患っていたそうだ。なのに彼女はタバコを吸って。きっと私と出会う前から、自分が長くないことを知っていたからの行動なのだろう。
最後は穏やかに私の手を握って眠りについた彼女。きっとあの言葉も、自分の死を予期してなのかもしれない。
彼女の時間は止まってしまったけれど。私の時間は容赦なく進んで。年も離れていく。
彼女は律儀な人だから。きっと私のそばにいるだろう。ふと、ベランダで淋しげにタバコを吸う彼女の姿が思い浮かぶ。彼女は幸せだっただろうか?
風と共に桜が舞う。私の初恋を奪っていった彼女のように軽やかに。

参考 緑の空作者pixiv
作家コメント
初恋を書きました。皆さんは初恋を覚えていますか?
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