新條にいな「せかいは滅んでください」

「会いたいです」

 
夜の十一時をすぎてからそんなことを言われるなんて、思ってなかった。
 
私は実家暮らしだということ、古都音(ことね)は忘れているんじゃないだろうか。

「古都音が泣いてて、すごく困ってるみたいで」

半端に事情を話したら、優しいお母さんは疑わずに了承してくれた。
地下鉄の七駅先のホームで、きっと古都音は、子犬みたいに私を待っている。
そんなことを想像しながら地下鉄に乗っている時間は、あまりにも甘美だった。
の好きな女の子はいわゆるメンヘラだ。
でも最初はすごくいい子にしか見えなかったから、地雷女の方が適切かもしれない。
どっちでもいい。私の選択は同じだ。

「あゆさん」

そうして私を出迎えた古都音の行動は、想像を超えていた。
古都音は、私を見つけた瞬間駆け寄ってきて。
背伸びして、首に抱きついて。キスをしてきたのだ。
駅でキスとか、バカのすることだと思っていた。
いや、たとえキスしなくても私はバカだ。
ここまで来てしまったんだもの。
古都音は家庭環境が複雑で、高校も途中から通えなくなって退学した。
それでもやっと立ち直ろうとしてるところに私と出会ったんだけど、神様は古都音を簡単に幸せにしてくれない。
縁を切ったはずの父親が、最近アルバイト先にまで来るようになったのだ。
でも彼女の話は、時々、つじつまが合わない。
単に説明が下手なんだろうと思いたいけれど、どこか妙だと思うことがある。
それでも。
明日が来るのが怖くて。『自分のことを好きだと言っている人を呼び出す』なんて安易なやり方でごまかしたい時、あるよね。
それなら私、いいよ。
なんて諸々から目をそらして、私はつかの間に幸せに浸りたい。
だけど同時に『こんなメンヘラ、どうせいつか私を捨てるんだ』なんて考えが、どうしても頭から消えない。
だから私は願う。
今すぐ世界が滅ばないかなって。
だっていらないよ、古都音に優しくないかもしれない、この恋に明るい未来を用意してくれそうにもない世界なんて。
だから神様、この世界を滅ぼしてくれませんか。
私は彼女を疑いながらも決して嫌いになれず、かといってすべてを受け入れる勇気も持てない日々に、そろそろ限界を感じてるんです。
「今私、生まれてから一番幸せです」
冬の寒すぎるホームで、古都音が言う。
私もそう思うから、今の一番いい瞬間で、世界には滅んでほしかった。

作家コメント
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参考 新條にいな作者Twitter
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