あめやゆき「秋」

クローゼットを開けると、大好きな彼女の匂いが、ふわり、広がった――ような気がした。
「今日はどれにしようかなー!」
独り言を呟きながら、わたしは一つ一つ、ハンガーに掛けられた服に目を通していく。
ブラウス、Tシャツ、ワンピース、カーディガンに、サマージャケット……わたしの趣味とは違うけれど、彼女の趣味でいっぱいの洋服たちは、彼女のものだというだけで、まるできらきら、輝いているように見える。
「よし! じゃあ今日はこれ!」
取り出したのは、夏空色の晴れやかなカーディガン。まるで彼女の性格みたいに眩しくて、目に鮮やかで、見ているだけで、わたしの心まで晴れ空模様になってしまう。
そんなカーディガンをぎゅうっと抱きしめて、わたしは彼女のベッドに飛び込んだ。
ぼふんっ、と柔らかな感触と一緒に、はじけて膨らむ、大好きな匂い。
「ふふ、おやすみ、あんずちゃん……」
星空模様のカーテンから差し込む、濃紺の陽気を受けながら、わたしはそっと、目を閉じた。
日曜日には、いつも、お昼寝をする。
本当なら彼女と一緒のお昼寝だけれど、今は彼女はいないから、代わりに、その匂いに包まれて。
ゆっくり、ゆっくり、息をすると、だんだん、だんだん、意識は暗く、落ちていく。
うとうと、うとうと……ぼんやりしてきた頭の中で、わたしはふと、気がついた。
毎日あんなにうるさかった蝉たちの声が、いつの間にか、全然聞こえなくなっていることに。
――ああ、そっか。もう、秋なんだね……。
思えば今日は、ちょっとだけ、外は涼しかった、ような気がする。
「ふふ、あんずちゃんにも、教えてあげないと、ね……」
ふっつり、眠りに落ちる、その前に、わたしは大好きな恋人に向かって、心の中で、そっと、呟いた。

拝啓、大好きなあんずちゃん。
あなたがいなくなって一ヶ月、初めての秋が、訪れました。

参考 あめやゆき作者pixiv
作家コメント
夏の終わり、秋の始まりのお話です。
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