えいな「好きよ、美紀。」

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彼女の親指が画面の上を滑る、滑る、滑る。眉間に寄る皺。その瞳は冷たい色をしている。
「嬉しそうにしちゃって」
「してないよ」
不機嫌そうな声。私の返答をまるで聞いちゃいない。こちらを見てなんてくれない。視線はずっと画面の上で、そのまま言葉を続ける。
「楽しい楽しいホームパーティだったんでしょ? サプライズのケーキまで運んじゃって、浮かれてる」
細い指先が止まって、一番最後の写真の上で止まった。確かにそこに写っているのは私だ。昨日の同期会の様子を幹事の子が早速SNSにアップしたらしい。カラフルに飾られた部屋。画面の向こうの人間に見せつけるための、空虚な宴だ。
「浮かれてなんかないよ」
静かに否定すると、彼女の唇が歪んだ。
「嘘。私の誕生日になんか、ケーキの一つも買ってくれやしないのに」
それでやっとこちらを振り返ってくれた。間接照明のオレンジで長い睫毛の陰影が出来る。目が合ったのは一瞬だけだった。つまり彼女は私を試しているのだ。それが分かるからその肩を抱き寄せる。
「確かにケーキは買ったことないけど。でもそれは美紀が甘いもの嫌いだからでしょう」
「そうよ、嫌い。ケーキも、あんたも、あの子たちもみんな嫌い。みんな嘘つきだから」
彼女は吐き捨てるように言う。その手のひらからこぼれ落ちたスマートフォンはベッドの上で青白く光を放った。
ねぇ美紀。それならどうしてまだこのSNSのグループにいるの? もううちの会社辞めたのに。どうして今日もここに来たの? 嘘をついているのは、本当はどっちなの?
そんなことを訊いたとしても彼女が素直に言うわけもないのは分かっている。実際どっちでもいいんだ、そんなことは。
私はゆっくりと彼女の体をベッドに横たえる。額にキスを落とすと、形のいい胸がびくりと震えた。綺麗な瞳はまだ剣呑な色を宿したままだけれど、ほんの少しだけ熱を帯びてくる。それを確認してから、今度は頬に、続いて首筋に、鎖骨に、それから耳朶に、口づけの雨を降らせてく。そうしたらほら。ふっくらとした唇が紡ぐのはもう私の名前だけになる。
美紀。私の美紀。ずっとそのまま私のことだけ呼んでいて。私のことだけ考えて、私のところだけにきて。
そうしないと何のためにあなたが会社に居づらくなるように仕向けたか、何のために私しか頼れないように他の奴らを、他の手段を壊してきたか、分からなくなるじゃない。だからお願い。
好きよ、美紀。

参考 えいな作者pixiv
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