新條にいな「わたしは徒花」

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わたしは悪い人間だから、奏海(かなみ)ちゃん以外を大事にしたり、優しくしたりすることができない。
奏海ちゃんはわたしよりももっと悪い人間で、とても許されないことをしている。
なのにわたしはそれを正すことができず、それどころか、その悪事に加担し続けている。
「……あなたは本当に哀れな人です」
だから数十分前に、数えるほどしか話したことのない人に、こんなことを言われてしまった。
「なので私が、あなたの道を正してあげましょう。
なぜなら私は、あなたが私と同じ、善なる生き物であると理解しているからです」
この人は警官で、最近、奏海ちゃんとわたしのことを嗅ぎ回っていて、しつこい。
その結果奏海ちゃんが自分の研究にかかわる人を壊したり、消したりしている証拠を、すでに見つけたのだという。
ところで、その『壊す』『消す』の実行犯が、このわたしだ。
だけど警官さんはわたしのことを気に入ったらしく、わたしだけは助けてくれるのだという。
ここでわたしは理解した。
――なんだ、この人だって、自分の都合で動く悪い人じゃないか。
善なるものどころか、自分の好みで人を判断する、わたしと同じタイプの人間じゃないか。って。
「だからね大丈夫。ちゃんとやったよ。
だってこの人、わたしのことわかったような顔しておいて、何もわかっちゃいないの」
「そうだよ。桜(さくら)は哀れなんかじゃないよね。
だってあたしと一緒にいるんだから」
そして今、わたしが帰宅して警官さんだったものを見せると、奏海ちゃんはこう言ってくれたけど、実際のところはどうなのだろう。
「それにしてもこの身体は素晴らしいね」
奏海ちゃんの関心はすでに警官さんだったものに移っており、これではまるで、警官さんの方がよほど奏海ちゃんに愛されているように見えるからだ。
これは、哀れと言えるのではないだろうか。
……だけどそうだとして、それがなんだと言うのだろう。
だってわたしは思う。
奏海ちゃんじゃない人と生きるくらいなら、今すぐ死んだ方がマシだよと。
好きじゃない人と仕方なく生きるくらいなら、わたしはこのまま、いつ奏海ちゃんに捨てられるかわからない恐怖に怯えて暮らしていく。
『好きな人といられないなら死んだ方がいい』
そんな高い理想を掲げたせいで、最後には誰からも見捨てられ、風に吹かれて消えていく。
そうなる権利くらい、あると思うからだ。
「じゃあ桜、そろそろこの人の仲間が来ると思うから、同じように処理してくれるかな。
……いい子だから、できるでしょ?」
「はい」
ところで桜の花は、短い期間ですぐに散ってしまうから、徒花とも呼ばれているらしい。
だから同じ名前を持ったわたしも、間もなく静かに枯れていく、かわいそうな存在になるんだろうか。
それでも、わたしの選択は変わらない。
生きている人よりも死んでいる人が好きな奏海ちゃんが、いつか悪い子のまま生きるわたしを好きになってくれたら。
そんな叶いそうもない願いを抱えて、それ以外を拒絶し続ける。
「たくさん壊すね」

作家コメント
よろしくお願いいたします!
参考 新條にいな作者Twitter
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