雁屋雪祢「きっとこの先も」

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夏の空の青さが好きで、お弁当を食べるならここしかないと決めている。教室の窓際、後方の席。カーテンの隙間から見える、透き通っているようで、だけどたくさんの青色を混ぜたような厚みのある空。
浮かぶ入道雲の重さが、わたしたちに今を夏だと感じさせてくれる。
この季節のお菓子選びは慎重だ。プチシュークリームは危ないし、キャンディは袋を開ける頃には原型を失ってる可能性がある。
チョコレートは溶けるけど、最近は溶けにくい商品も出てたりするから重宝。定番はクッキーなどの焼き菓子。お昼休み、ご飯を食べ終わったあとのお菓子タイムが、わたしの至福の時間。
燿子はいつも本を読んでいる。真面目だな、と真剣なその視線をじ、と見つめる。風が吹くたびに揺れるカーテンによって、わたしたちは遮られる。風が止んだ時、燿子は顔を上げていた。ばちんと目が合ったので、わたしはにっと口角を上げる。
カーテンが邪魔だなと思う時もある。でも、わたしはこの一瞬が――視界の開けた瞬間に、燿子がわたしのことを見つめている事実が発覚するのが――たまらなく好きで、今日もこの席に居座ってしまう。
「はい、燿子」
「……今日はなに?」
「フィナンシェ。昨日お姉ちゃんが焼いたの」
わたしはいつも、食べかけのお菓子を燿子にあげる。だけど燿子は僅かに眉間にシワを寄せて、首を横に振る。
「甘そう」
「そこまででもないよ、騙されたと思って食べてみなって」
「騙されないし食べない」
頑なに受け取ろうとしない燿子に、わたしはわざとらしく唇をすぼめる。だけど燿子はそんなわたしを無視して、本に視線を戻してこう言った。
「甘くなければ食べるんだけどね」
――嘘吐き、と心の中で唱えてみる。
燿子はひどい嘘吐きだ。だって、わたしは知っている。燿子が本当は甘いものを食べられることを。チョコだってクッキーだってキャンディだって、生クリームだって、きっと平気。
じゃあ、どうしていつも燿子は断るのか。そんなの簡単だ。
これがわたしの“食べかけ”だからだ。
間接的な唇の触れ合いを、彼女は恥ずかしがる。手だって繋いでくれないし、後ろから抱きつけば耳だけを真っ赤にして抗議する。クールそうに見えて、とってもウブな女の子。
口には出さない。態度にも出さない。一生懸命に隠す燿子が可愛らしくて、わたしは今日も食べかけのお菓子を差し出す。
「苦かったら食べてくれるの?」
「そうかもね」
でもね、苦いのは趣味じゃないの。甘ったるいほど照れる君を、いつまでも見ていたいだけ。

作家コメント
照れてないそぶりする照れてるおんなのこが好きです
参考 雁屋雪祢作者Twitter
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