玉置こさめ「ラビット」

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知らない、知るわけない。
ライブで唄い尽くした帰り道。電車の車両にはもうあたしと彼女しかいなくって、窓の向こうに猫のちいちゃな爪みたいな月。
ただの幼馴染で仲良しでアルバイト先も同じ。
彼女もまた同じ大志のもとにバイトしている、ってわけじゃない。気付いてた。
彼女、シズちゃんに何もないことはわかっていた。
あたしがヴォーカルつとめるバンドのギタリストをやってくれるのも、同じところでバイトしているのも、あたしといたいだけ。そこに何かがあるわけじゃない。あたしのため。
彼女も疲れてこっちの肩に頬を押し付けて目を閉ざした。そのまぶたの端に小さく光る涙を見つけて驚いた。
長い髪が揺れる。アーモンド型の兎みたいな瞳が今にも真っ赤。
急に気付いた。
泣いているの。尋ねたら違うと云う。
どうしたの、いやだったの、誰かに何かされたの。重ねて問い詰めた。
その人は云う。
何もしてくれないの、あたしの好きな人。歌や音楽に夢中で。置いていかれそうで怖い。
怒ったように告げて涙を流す。
衝撃。
それって友情だと思ってた。どうして早く言わないの?
ねえ、もっと早く教えてくれていたらこの愛しさをラララにのせて歌うこともなかった。
そう。
「じゃあ、一緒に来る? あたし、進学しないけど」
最初から、こんなに、あたしも。
かわいい兎は涙をおさめてこちらを見た。
初めて出会ったみたいに。
そうして、小さく頷いた。

参考 玉置こさめ作者Twitter
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