久良伎「ふたりなら、いいんだよ」

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たくさんあるものの中から、ひとつを選ぶ。どうせなら良いものを。より優れたものを。自分にとって好みのものを。ひとは、そうやって何かを選んでいくんだと思う。だって、いくつも選ぶのはずるいから。
どれかひとつ。子どもは、大人たちからそう言われ続けて育っていくのだから。

「んー! これめっちゃおいしー!」
ケーキを頬張りながら、あいなちゃんは喜びの声を上げる。彼女は姉夫婦の子なのだが、二人の仕事の都合でどうしても家に帰ることができない日があるときには、在宅勤務の私のところにこうして預けられてくる。今回もよろしくという連絡が来る度に、私は小学生である彼女のテンションを上げることができそうなおやつは何だろうかと頭を悩ましていた。
「気に入ってくれてよかった」
「甘くてちょっとすっぱくて、でもやっぱり甘い……」
必死に美味しさを説明しようとしてくれている姿が可愛い。彼女が褒めているそのケーキは、ココアのビスキュイの上にフランボワーズとピスタチオのムースが綺麗に折り重なったもので、お店のイチオシとして売られていた。私の食べているベイクドチーズタルトと、冷蔵庫にしまったラズベリーチョコムースのどれにするか悩んで、彼女はそれを選んだのだった。
「前回の抹茶カステラは不評だったもんねぇ」
少し小さい声でそう呟いて、タルトを口にする。クリームチーズとアーモンドタルトの二層の生地が口の中で段々と一つになっていき、複雑な甘さがいっぱいに広がる。あ、このお店の、本当に美味しい。次もまた行こうかな。あいなちゃんと一緒に行くのもいいな。
そんなことを思っていると、ふと、あいなちゃんがこちらに視線を向けているのを感じた。いや、というよりもその瞳は私の手元のタルトを映しているような……。
「もしかして、これ食べたいの?」
「食べたーい! ね、ちょっとちょーだい?私のと交換!」
目を輝かせておねだりをしてくる。仕方ないなぁ、と言ってお皿を差し出すと、フォークで結構大きめにカットして口へ運んでいく。それ、もはや半分じゃん。

「こっちもおいし~! ね、ふたりだと、いっぱい選べていいね」
「もう、なにそれ」
「夜ごはんのあとはさ、今度はチョコのやつ食べよ? 一緒に!」

ずるいなぁ、もう。

参考 久良伎作者Twitter
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