新條にいな「甘いまばたき」

左手の指だけを包むように握って、それからゆっくり顔を近づけた。
初めてするわけじゃないんだから、ここまですればいくら瑠衣(るい)でも、これからキスされるんだってわかるだろう。
だけど彼女は、なかなか目を閉じない。


「なんで目ぇ開けてるの」


と聞いたら


「もったいなくて……」


と言い出す。
でも、悪くない。
至近距離で、少しの間も惜しむようにじっと見つめられるのは、すごく幸せだ。
だからしばらく真似をしていたら、もったいないと言い出した本人が、しびれを切らしたように唇を重ねてきた。


「ん……」


瑠衣と最初にキスをした日、私は自分が、瑠衣のファーストキスの相手だと知った。
正直、自分が相手として優秀だったかは不安だ。
だけどそれ以上に、彼女を独占したような気分になれて嬉しかった。
たとえ、問題が色々残されていたとしても。


「あの。これから、もっとすごいことするんですか」
「そうだよ? 付き合ってるんだから」


唇を重ねるだけの浅いキスの繰り返しだけでも、瑠衣には相当刺激が強かったらしい。
すっかりふにゃふにゃになりながら、こんなことを聞いてくる。
この子はとにかく鈍くさい。
せっかく出来てきた『いいムード』を、平気でぶち壊す。
でも、焦ることはない。
私は瑠衣の事が好きで、瑠衣も私の事が好きだ。
だから慌てなくてもいい。
そんな確信を持てるなんて、なんて幸せなんだろう。


「でも、今日はここまでにしとこっか」


だからこう言ったのに、瑠衣ときたら、


「えっ」


と、露骨に残念そうな顔をする。
いったいどうしたいのか。


「なに。もっとしたかったの?」
「はい……!」


でも私、この嬉しそうな顔、すっごい好きなんだよぁ。
これを見るために、私はつい無理をしてしまう。
だから未だに『あの日、実は私も初めてでした』と言えずにいる。ただ年上だからという理由でしょうもない見栄を張り、あたかも色々知っているかのような態度をとってしまう。


「もう一回したい、です」


でも、ああ、今のはすごいきゅんときたぞ。
今度こそ、キスじゃ済まなかったりして。
……どうすればいいのか、ちょっとわかんないけど。
そう思いながら私はもう一度その左手を握り、それから目を閉じた。

参考 新條にいな作者Twitter
作家コメント
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