おおきたつぐみ「キスまたキス」

夏の終わりの昼下がり、好きな子のアパートで二人きり。
何度かはぐらかされて、ようやく入れてもらえたというのに、奈緒は授業のレポートがあるからとノートパソコンにかじりつきだ。
「今じゃなきゃだめなの?」と聞くと、
「今日授業で急に言われたから、今やっとかないと明後日までに間に合わない」と画面から目を離さずに奈緒は言った。

カタカタと奈緒がキーボードを叩く音しかしない部屋で冷静さを取り戻した私は、さりげなく部屋中を見て回り、男とのツーショット写真が飾っていないことを確認してほっとした。
あの暑い日、急な坂を登り、奈緒が生まれ育ったアパートを二人で見た時、やっぱり彼女のことを、友達としてじゃなく恋として好きだとわかった。
気持ちが溢れて止められなくて、無言で奈緒にキスをした。
奈緒は心底驚いたことだろう。
あれから何を話して帰ったのか覚えていない。

はっと気づくと奈緒がじっと私を見ていた。なんだか不機嫌そうだ。
「どうしたの?」と恐る恐る聞いても、奈緒は無言でただ見つめてくる。
─今言わなきゃ。
じりじりと私は奈緒に近づいた。奈緒の手に自分の手を重ねる。
キスしたい。
ああ、でも。言わなきゃ。

「…ちゃんと、私と付き合ってほしいの」
絞り出した声は掠れていた。─かっこ悪い。
奈緒が至近距離からじっと私を見つめ返す。
「ちゃんとってどういうこと?」
奈緒の声も掠れている。あなたも緊張しているの?
「奈緒のこと恋愛として好きだから、一緒にいたいの」
私の生まれて初めての告白。
女の子相手にするなんて予想もしなかったけれど、こんなに好きになったのは奈緒だった。
これでフラれたら、私もう大学に行けない。
無言が怖い。消えてなくなりたい。

その時、両頬を包まれ、顔を上げさせられた私の唇に、奈緒の唇が重なった。
─ああ、これ。この柔らかさ。
唇どうしが触れるだけで意識が飛びそうになる。

唇が離れたほんの少しの隙間から、奈緒が囁いた。
「坂の上のキスで、私も和沙が好きになったみたい」
奈緒の甘い吐息ごとすべてを吸い込むように、私は彼女にキスをした。

作家コメント
「どこまでも濃い青空の下で私たちは」の主人公を変えた続編です。

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