じ、と見つめていた。窓の向こうから吹く風が、教室の真っ白なカーテンを揺らして、時々、向かい合って座るあたしたちの間を遮った。視界が開けると、カナもあたしのことをじ、と見て、そして目尻をきゅっと上げて笑った。チョコクッキーをつまみながら。
カナはお昼のお弁当の後に、必ずお菓子を食べる。太るとか太らないとか、そういった女の子の誰しもが抱えるであろう悩みは、カナにとってはどうでもいいらしい。
あたしたちはいつもお弁当を食べ終わると、自分の好きなことばっかりやっている。かしましい休み時間の教室の中で、カナはお菓子を食べながら携帯電話を弄り、あたしは本を読む。恒例行事、日常生活。夏の日差しを窓越しに存分に浴びながら、短い自由を謳歌する。
「燿子、あーん」
唐突に。名前を呼ばれ、本から顔を上げると、カナはあたしに向かって囓りかけのクッキーを差し出してきていた。
「……甘いもの苦手って言ってるじゃん」
「でもこれビターチョコだよ」
でもクッキー自体が甘いでしょう。そう返しても、カナは手を引っ込めてくれない。本に視線を戻すが、カナは相変わらず、マスカラでたっぷりに縁取られた瞳を細めながら、クッキーを片手にあたしのことを見ている。
根負けしたあたしは、それをカナから受け取ると、ぱき、と半分に割って――カナが口をつけていない方を食べた。もう半分はカナに返す。
「ぜんぶ食べて良いのに」
「やっぱ甘いよ、これ」
わざとらしく眉根を寄せながらぜんぶ飲み込むと、その表情が可笑しかったのか、カナはケラケラと声を上げて笑った。
「甘いの苦手なんて変なの」
「人は誰しも苦手なものの一つや二つあるの」
なんてことを言いながら、あたしは水筒のお茶を一口飲んで、また本に視線を戻す。「まぁ確かに」と納得するカナの呟き。
風が吹く。カーテンが揺れて、視界が遮られる。
――本当は。
本当は、甘いものは苦手なんかじゃない。チョコだってクッキーだって、生クリームだって食べられる。だけど頑なに食べようとしないのは、それがカナの食べかけであるからだ。
カナはいつも、あたしにお菓子を寄越してくる。だけどあたしはそれを断る。だって、カナの唇に触れたものが、あたしの唇にも触れるところを想像すると、それだけで死んでしまいそうになるからだ。熱くて、甘くて、ちょっぴり苦しい。
カナは嫌がる素振りをするあたしの様子を面白がっているけれど、あたしは毎度、気が気じゃないのだ。
「いつか好きになるかもよ?」
そう言ってまたチョコクッキーを口に運ぶカナの美味しそうな笑みは、やっぱり甘ったるかった。
