あめやゆき「親友」

わたしは、親友のマリカが好き。

「恋人が欲しい」
終業式の帰り道、マリカがふと、そんなことを言った。
「何? どうしたの急に?」
「や、もう高校最後の夏なんだなーって思うと、なんか急に寂しくなってさー」
「あー、そういう系かー」
「そう。そーゆー系。せっかくだし思い出作りたいなー、ってね」
じりじり、じりじり、夏の虫の騒がしい声が、遠くに響く。
梅雨を越えた白い日差しが、黒い地面を照りつける。
「……そっか。もう、最後なんだね」
わたしは、眩しい空を見上げて呟いた。
高校最後の夏――それは、マリカと過ごす、最後の夏。
お互い将来の夢が違うから、卒業したら、離ればなれになってしまう。
もちろん、時々会おうねと約束はしているけれど……別れの日までもう半年もないのだと思うと、胸が、苦しくなる。
「ねぇ、マリカ」
わたしは、もう一度マリカを振り向いた。
かわいく傾げる、丸い瞳、大きなほっぺ。もう十八なのに、まだまだ子供みたいな顔。
そんな彼女を見つめて、わたしはぎゅっと、鞄を掴む手に力を込めた。
「……それなら、わたしと付き合わない?」
きょとん。
茶色の目が、いつもより、大きく膨らむ。
ほんの少し、マリカはわたしを見つめ返して――それから、ふっと、おかしそうに吹き出した。
「あはっ、カレンと恋人かー……うーん、いい子だけど、付き合うのはなー」
「うわ、親友に対してひどー」
「えへへ。親友だから言えんじゃん。っていうか!」
にっと、マリカは笑って、ぴしりとわたしの顔を指さした。
「カレンは男の子が好きな人でしょ? そもそも付き合えないじゃん!」
「……えへへ、だよねー」
笑顔の後ろで、胸が、小さく痛んだ。
わたしは、マリカが好き。だけどそれは、親友の好きで、恋愛の好きじゃない。
だから、わたしは彼女の恋人にはなれない。たとえなったとしても、彼女の望むものを、わたしはきっと、与えられないから。
――でも、それでも。
「話変わるけどさ、今年の花火大会どーする? 一緒に行く?」
「わ、強引に変えたね。んー、もし彼女ができなかったら、一緒に行ってもいいよ?」
「何目線だよー。おっけ。ならできないように祈ってるわ」
「ひどっ。絶対作ってやるから!」
高い声を響かせて歩きながら、わたしはそっと、マリカの横顔を見つめた。

わたしは、親友のマリカが好き。世界で一番、大好き。
――彼女の一番も、ずっと、わたしだったらいいのに。

参考 あめやゆき作家pixiv

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