ATライカ「濡れて」

薄暗い昼下がり雨が降っている。雨粒は屋根やベランダの手すりに当たり、高い音を叩きだして。そして何より、干しっぱなしの洗濯物を濡らしていく。
私達二人は、その様子をじっと床に座って見ていた。
「濡れてくねえ」
どうせ乾いていないしそのままにしておこうと言い出した張本人が、楽しげな声を上げる。
「そうだね」
上から順に濡れて行くと思っていた洗濯物は、風向きによっては真ん中や下から濡れたりして、私はそれをなんだか不思議な気持ちで見ていた。
不思議と言えば隣にいる人もそうで、彼女は一年の大半を連絡のつかないどこかで過ごしている。行き先は見せてくれる写真からして外国で。パソコンは持って行くから、ライターか何かなのだろう。多分。
写真には別の人が映っていることは無いから、浮気はしていないと思う。家にいる時は毎夜求めてきてくれるから、愛もちゃんと持ってくれていると思う。そこは信用してる。でも、ペアリングの片割れを必ず置いていくのはやめて欲しいな。
とりとめもなく考え事をしていると、彼女がおもむろに立ち上がり、からからと窓を開けてベランダに出て行ってしまう。
「何してるの?」
吹き込む雨が頬を薄く撫でてくる中、彼女はシャツを脱いで下着姿になる。
「気持ちいい!」
そう言って、突然ずぶ濡れの洗濯物をハンガーから外して着はじめる。濡れた布が肌に張り付いて体のラインが浮かび上がらせ、雨が指通りの良い髪にどんどん含まれていく。
「こっちくる?」
躍るようにくるくると回り、歌うように私を誘ってくる。
「いいよ。私は見てるから」
私は結局、今の様に自由で奇天烈な彼女をずっと見ていたいのだ。私が好きな彼女は、私にすら染まらない、勝手にどこか遠くに行ってしまう人なのだ。
女同士だから彼女をつなぎとめられる鎖は少なくて。だから、いつか帰ってこなくなるかもしれない。でも、それでも私は、彼女を許してしまう気がする。
雨に心躍らせる笑顔の彼女を見て、私はずっと微笑んでいた。

参考 ATライカ作者pixiv

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