おおきたつぐみ「どこまでも濃い青空の下で私たちは」

アスファルトは夏の真昼の暑さで溶けそうに熱く、急な坂道を進むたび、スニーカーの底から熱気が体に伝わった。
先を歩く和沙が振り向いた。住宅街を抜ける坂道には人の気配がなく、聞こえるのはセミの声と、和沙と私の荒い息遣いだけ。
ここは私が生まれてから4歳まで過ごした町だ。
今住んでいる街から快速電車で1時間の距離だけど、特に見所もないこの坂の町を再び訪れる機会はなかった。でも時折無性に懐かしくなった。特に、坂の上から見た広い空を。
それをふと、ゼミ友の和沙に話したところ、「週末行ってみようよ。私、奈緒が生まれたところ、見てみたい」と目を輝かせるから、それじゃあ…という気になった。
 
ようやく坂道のほぼ頂上に差し掛かり、開けた風景を見てはっとした。公園、駐車場、そして右手のひときわ古ぼけた青い屋根のアパート。
「私、ここに住んでいた」と指さすと、先を歩いていた和沙もアパートを見上げ、にっこりと笑って私に向かって手を差し出した。その手を自然と私は握り、和沙に引っ張られて頂上に着く。
私たちは手をつないだまま、アパートの影になっている隣の駐車場に立った。私の頭の中で、目前の風景と遠い記憶が急速に融合し火花のようにいくつもの思い出が蘇った。若かった父母、幼かった私と弟。
フェンスに寄りかかり、帽子を取った。隣の和沙も同じようにする。
「あの空を飛んでみたいって思ったっけ」
思い出の通り、坂の頂上から見る空はとても広く青く、無数の白い入道雲が天上へと立ち昇っていた。
「和沙ありがとう。来てよかった」と和沙を見ると、和沙がちょっと困ったような表情をして首を傾げた。そのまま近づいたかと思うと、次の瞬間、私の唇は和沙のそれに包まれていた。
和沙の唇はこの暑い世界でただひとつのオアシスのようにひんやりと柔らかく、思わず私はうっとりと目を閉じた。
濃すぎる青と白すぎる雲がどこまでも広がる空の下で、私たちは初めてのキスをした。

作家コメント
遠い思い出の場所に一緒に行く人とは、誰より特別な関係になっていくんだと思います。

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