雁屋雪祢「神様に誓って」

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「結婚しよう」
真依穂は日本酒がなみなみと注がれた升を傾け、呷る。私はその様子をじっと見ながら頷いて、薄まったジントニックの入ったロンググラスを片手に彼女の次の言葉を待つ。
「って言われて、断っちゃった」
「はあ!?」
ガン、と思わずグラスを置く勢いが強くなる。想像より大きく響いた音に自分自身でびっくりして、思わずグラスの底を確認したけれど、真依穂はそんな私の様子をゲラゲラと笑っている。個室で良かった。
「だって五年目でしょ、断ってこの先どうするの、別れるの、彼のこと嫌いなの」
「矢継ぎ早に聞かないでよぉ」
若干呂律の回らなくなっている真依穂は、私の言葉にへらへらしながら、うーんとねぇ、と和風に作り上げられた天井を見つめる。
真依穂の彼氏は大学のサークルからの付き合いだ。なので私も必然的に知り合いになるのだけど、まさか、結婚を断るなんて。
「五年だからかな」
「……どういうこと?」
「今まではね、この人と結婚するんだろうなぁって年々強く思うようになってたの。だけどさ、いざ口に出されたら、あ、違うかもってなっちゃって」
ぽつり、と独り言のように真依穂は続ける。
「この先どうしよう」
そんなの簡単だ、と彼女を見つめながら思う。そんなの簡単だ、私にすればいい。
私を選んで、私と一緒に住んで、私と結婚すればいい。絶対幸せにしてみせるし、間違いなく毎日が楽しくなる。約束できる。
――でも、現実は甘くなんてない。
私たちは結婚できない。幸せにできる保証なんてどこにもなければ、真依穂が私を選ぶこともない。冗談でもいい、私にしちゃいなよって口に出したい。私を選んでよ。
だけど心の中で渦巻く言葉を、私はジントニックで流し込んで、ただ微笑んでこう言うのだ。
「大丈夫、私は真依穂の味方だから」
いつまでも、きっとどこまでも。私たちはそうであり続けるのだろう。私の言葉に泣きそうになりながら笑う真依穂を見て、私は神様を呪うしかできないでいる。

参考 雁屋雪祢作者Twitter
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