久良伎「重たそうだから」

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「もう無理……きつ……」

ある金曜日のこと。スーツを着たお姉さんがそう言っているのを聞いて、学校からの帰りだった私は思わず傍に駆け寄りました。どうして? だって、そのお姉さんは、見るからに重たそうな買い物袋を二つも両手に握っていたから。手伝わなきゃって、なんとなく思ったんです。

「本当にありがとう……」
お姉さんが住むアパートに到着するまで、私は何度も感謝の言葉をもらいました。でも、どちらかと言えば
「ごめんね」
そう言われることの方が多くて。何だか暗い人だなぁって思いながらも、謝られるたびに私は、大丈夫ですよ、気にしないでくださいって、何度も繰り返し答えていました。実際、お姉さんが何をそんなに悪いと思っているのか、私にはわかりませんでした。私がしたことは、二つあった荷物の一つを代わりに持っただけ。ただ、それだけでしたから。

その日以来、お姉さんが重たそうな買い物袋を抱えている姿を見かけては、その荷物を半分持って、家まで運ぶお手伝いをするようになりました。
「あ、君は……」
最初は、どこかぎこちない様子でいたお姉さんでした。けど、一緒に歩く日を重ねていく中で、
「あのね、今日、会社でね」
少しだけ慣れてくれたのか、お姉さんは段々と自分のことを話してくれるようになりました。料理が苦手で、金曜日になるといつもスーパーで冷凍食品をたくさん買っていること。お仕事がうまくいかなくて、夜になると不安で寝られないこと。家族と縁が切れていて、周りに頼れる人もいないこと、――ひとりなこと。

「ごめんね、こんな話して。反応に困っちゃうよね」
あはは、って力なく笑うお姉さんの顔を見て、胸がちくっと痛みました。偽善かもしれません。でも、お姉さんの中の重荷を少しでも減らすことができるなら。だから、私は口にしたんです。初めてお姉さんに声をかけた時と、同じ言葉を。

「あ、あの……半分、私が持ちますから」

抱えているものを、半分だけ私に。

作家コメント
全部は大変だから。半分だけ、というお話。
参考 久良伎作者Twitter
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