MEKA-BOON「永遠の15分」

露先から垂れる雫がセーラー服を滲ませていく。
濡れる左肩を気にしながら、私はいつも同じ教室の、同じタイミングに下校するグループの中心にいる彼女を、少し離れたバス停に並びながら右手のビニール傘越しにじっと見つめていた。

小間に付着した水滴の隙間から、彼女だけを切り取って周りをわざと屈折させてみたりする。彼女達の事は嫌いじゃないけれど、彼女の友人であって、私の友人では多分、無い。路地に咲く紫陽花の青い匂いと、彼女がこっちを見てくれないもどかしさと、しとしとと降る雨の湿気で溺れてしまいそうだ。

「じゃあ、また明日ね!」
そう言って彼女は友人達と道を別れると、少し小走りで私のもとに駆け寄ってきた。
私のより大分大きい傘を手に隣に並びバスを待つ。

あの子と少しでも近くになれるかもって、わざと小さめの傘を買ったのだけれど、馬鹿みたい。雨が何回降ろうが、彼女が一緒の傘に入る事なんてあり得ないのに。
あたり前だ。私と彼女はまだ、一度も会話すらした事ないのだから。

でも……
いつも皆の中心にいる彼女が。
いつも皆の共有物の彼女が。
この時、この瞬間だけ私だけのものになる様で。
とても嬉しくて、この約15分間がとても愛しく思う。

すぐありもしない奇跡を願ってしまうそんな自分に嫌悪感を抱きながら、彼女の事なんか興味無い様な素振りで本を開く。

だけどしばらくすると―――。

「あの……」
「え?私?」
「うん。肩……濡れてる。そのままじゃ好きな本も濡れちゃうよ」
「私の傘、大きいから入る?お父さんのお古だからちょっとダサいけど」

田植えを終えた田んぼからの、いきもの達の残響が、やけに耳の奥に響く。

傘の中に入るとまるで、初めから二人分用意されていたみたいにすっぽりと包まれた。
心臓の鼓動が聞こえてしまわないように本を胸に押し当てる。

ゆっくりと視線を上げると彼女の顔もなんだか少し赤い様に思えた。
このまま、バスが来なければいいのに。
永遠にこの15分間の中にいたい。
そう思ったの。

 

参考 MEKA-BOON作者Twitter
作家コメント
好きな人の時間を独り占め出来るって幸せだなって思いながら書きました。

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