太陽はいつのまにか溶け落ちて夕陽になっていた。両耳を撫でる潮騒が楽しくて、私たちはいつもより小さな声で話をしていた。部活のこと、進路のこと、親のこと、受験のこと。私は、相手の顔が黄昏に眩んで見えないことを良いことに、小さく、本当の表情を作って、伝えないようにしている本心の輪郭をなぞってみたりした。
「やっぱり、二人で来てよかったね」
彼女が言う。旅行鞄には詰めてこなかったはずの気持ちが、かさかさと、乾いた音を立てた。
私はうなずくようにうつむいて、裸足を洗う波を眺める。
足元は初夏の残り火のように微温く、それを時折、怖いくらい冷たい波が洗い流す。この孤独が。――あなたと一緒にいる時だけ感じる孤独感が、私は、嫌いで、好きだった。歪だと、思う。私も彼女も歪だ。歪だからぶつかるし、お互いの心の深い所が引っかかりあって離れられずに居る。極めて個人的な私の感情は、口に出そうとすると歪んでしまうから、いつまでたっても心の中から取り出すことができない。
――遠くに見える水平線はあんなにも綺麗なのに。
届かない物に手を伸ばそうとして、私はそれをやめて左の頬を掻く。怖いのだ。砂浜に書いた落書きみたいな、私たちの些細な関係が壊れてしまうのが。あの穏やかな水平線が、足元に来ると急に表情を変えて、足元をさらってしまうのが。
「ねぇ。私たち、付き合ったら楽しいと思わない?」
不意に。いや、予想していた荒い波に、ぐらりと、足を持っていかれる。
私は、呑まれてしまわぬようにつま先で砂を掴む。
「楽しいとは思わないかな」
あなたといると、ずっと心がざわざわするから。
考えなくて良い余計なことを考えさせて、私の世界の解像度を上げてしまうから。
「そっか。残念――」
彼女に背を向ける。それから、私は、波に浚われてむき出しになった心に触れて、言った。
「楽しいとは思わないけど、付き合いたいとは思ってる」
一瞬遅れて、背中に水が掛かる。
見なくてもわかる。顔を真赤にした彼女が、海面を蹴り上げたのだ。
「からかうな! ばか!」
私は、自分の真赤な顔を見せないように、後ろを向いたまま彼女に手を振った。
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