えいな「そらとうみとのあいだには」

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春の海岸線は、私達の他には誰もいなくて、冷たい風がしきりに吹きつけてくる。頬はもう随分冷たくなっていた。静かだった。浪の音しか聞こえない。時折、車が通りすぎていくことはあったけれど、すぐにまた静けさが戻ってきた。
日差しは夏のそれと比べると、どうにもぼんやりとしていて、しかし眼前に広がる青はやけに晴れやかだ。視界の上から下まで、青。空と海とが一続きみたい。それでも二つはやはり別物だった。水平線。それは交じり合おうとする青を分かつもの。きらきらと日差しを反射させる境界面は金色の帯のようで、私は忌々し気にそれを見ていた。
「なんで怖い顔してるの」
奏羅(ソラ)ちゃんがつぶやくように言った。
「空と海との間にはどうしても隙間があるんだなって思ったから」
私がすぐに答えると、奏羅ちゃんはひゅうっと短く息を吸い込んで、しばらく押し黙っていた。
ややあって、手のひらに暖かい感触。奏羅ちゃんの、私と寸分違わない形をした手が私のそれを握っていた。
「あたしと宇深(ウミ)の間には、何の隙間もないよ。なんにも、あたしたちの間に入り込むなんてできない。だって」
語尾が熱く震えている。奏羅ちゃんの瞳が探るように私の瞳の中を見ている。
「あたしたちは同じで、ひとつでしょう?」
ざばんと波が砕ける音が強くなった。さっきよりも風が少し強くなったみたい。
あのね、違うんだ奏羅ちゃん、奏羅と宇深の、私たちのことじゃなくて、今私たちが見ている、どっちも綺麗な青色をした、空と海の話だよ。笑ってそう言おうと思ったけど、すぐにやめた。だって、奏羅ちゃんが何のことを言っているのか、私にはもう分かっていたから。
私たちは同じ日、同じ時に同じ胎内から生まれ落ちて、同じ顔に同じ声、同じ仕草、同じ癖。何もかもおんなじで、それはさっき奏羅ちゃんも言った通りだ。
私たちは同じで、ひとつ。
でも、分かってるんだ。終わりが近づいているってこと。
私たちは何もかもそっくりなのに、それでも確かに濃淡の違いはあって、時が経つほどそれは顕わになっていく。私達の間には私達を分かつ水平線が確かにあった。きっと、このままずっと一緒にはいられない。
私達の手のひらはまだ、ぴったりとくっついている。
奏羅ちゃんが、他の何かが入り込まないように、特別にぎゅうっと力を込めてくれているからだよね。
ありがとう。何もかもおんなじあなた。
きっとこの先、別々の道を行くことになるであろうあなた。
だから私もその手を強く握り返す。
一分でも一秒でも長く、一緒の時間を過ごせるように。
空と海の間に、他になんにも入り込まないように。

参考 えいな作者pixiv
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