ATライカ「放課後」

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放課後の教室、委員の仕事で一人だけ残った私は、窓の外の落ちて行く夕日を肘をついて眺めていた。
仕事はとっくに終わっていて、それでも職員室に提出にいかないのは、人を待っていたからだった。
誰もいない静かな廊下を歩く足音が聞こえてきて、私は急いで背筋を伸ばして座り直し、服装を正す。そして、髪の毛が変になってないかな、と筆箱の中に入れた小さい鏡を見る。
うん、大丈夫。
そう思った矢先、ガラガラと教室の扉が開く音と共に待ち人が入ってきた。黒いスーツを着た、見るからに真面目そうな女教師。私の好きな人。
「もう終わった?」
私の方に歩み寄りながら、そう問いかけてくる。
「はい、今終わったところです」
彼女の目を見てちゃんと答える。夕日に照らされた、縁のない眼鏡の奥にある瞳が、私は宝石のように思えた。そして、私は仕事でまとめていた紙の束を渡す。
「確認するね」
そういいながら紙の束を一枚一枚捲っていく指を私は眺める。細く女性らしい指に、右手中指だけペンだこがあるのが、先生らしくて私は好きだ。
「うん。大丈夫そうだね。お疲れ様」
紙の束をぱたんと閉じた時の風が先生の甘い香りを運んできて、それに私は胸の奥が温かくなるような気がした。
「いえ、仕事ですから」
その暖かさがとてもこそばゆくて、恥ずかしくて、私は少し先生から顔をそらしてつっけんどんに言ってしまう。
一瞬静かになって。
「相変わらず、すごい綺麗な髪だねえ」
ふと先生がそんなことを言ったので、顔をむけると彼女は私の髪を指さして、微笑んでいた。
「恋でもしてる?」
先生です。
先生に触ってほしいから、綺麗にしてるんです。
なんて言うことはできなかった。
だから私は、
「内緒です」
ってはぐらかすんだ。

参考 ATライカ作者pixiv
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