玉置こさめ「コルト」

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「ねえ、私じゃ駄目なの?」
 
「悪いと思うならここにいて」
 
あんなこと言われて振り切れるはずないの。お願いするみたいに、あの人は確かに私に言った。あの夜しかなかったの。魔法がかかりきらないうちに御者をふりきり自力で舞踏会へ。そんな御伽噺聞いたこともないけれど。ライブ会場に送ると、あたしをのせたバイクは故障して立ち往生。打ち明けられた言葉。けど続けて笑った。
 
「うそだよ、冗談」

きっとあたしが困った顔したから。わかってるの。
到着したタクシーにあたしを乗せて会場に送り出してくれた。放っておけなくて会場についてからも、ずっと連絡待ち。バイクは移動されて今は修理に出されて、彼女も帰宅した。でも。
「ねえ、聞いてる?」
「あんたのせいじゃん」
「アイツ風邪ひいたんでしょ」
三度目。登校中とお昼休みと放課後。それぞれ別のグループから呼び出されて、今は三度目。あたしが彼女を連れまわして、彼女だけ置いて風邪を引かせたことは噂になってた。二人でライブに行くことも最初から話題になってた。会場に着いたのはあたし一人だけで、それを同級生に見られてた。
あたしに優しいのは従姉妹だから、幼馴染だから、だからわがままを聞いてくれる。振りまわしたらいけないの。こんな風に放課後の古い校舎の隅に呼び出されて囲まれることになるから。
この人たちは可哀想。あの強い瞳はあたしにしか向かないもの。
打ち明けておきながら、ごまかしちゃう、意気地なしだけど。
けれど、思い切り意地悪に笑って彼女たちに言い放つ。
「えーっと…。確かに彼女が風邪引いたのは私のせいですう。だって私にだけ優しいからあ。つい甘えちゃってえ」
あの人はあの日確かに連れて行ってくれた。
思った通り、彼女たちは怒り始めた。でもあの人に嫌われるのが怖くて手も出せない。
臆病者にはわからない。誰も彼も知らないくせに。
別にあの人のこと一番じゃないわ。あたしの歌姫は手の届かないステージにいる。一番ってわけじゃないの。ごまかしたりするんだもの。灰かぶりは魔法使いに会う前に継母を自分で殺さなければならなかった。魔法なんて待ってられない。
けど、いいの。どんなに本当は意気地なしの御者でも、かっこいい王子様じゃなくても隠してあげる。
あの人のいいところなんて、あたしが誰より知ってる。
明日になったらきっとまた悪い噂が広がって、あの人は困るわ。
鎖をつけておきたいの。
魔法使いなんかじゃないわ。王子様でもない。
かわいい子馬。
あたしだけの。

参考 玉置こさめ作者Twitter
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