山口要「私が弁当屋に通う理由」

1

「いらっしゃいませー」
毎日毎日、大手ファッションブランド(KAORI)の女社長であるこの財前香織(ざいぜんかおり)が何故こんな貧乏っちい弁当屋の弁当を買っているかというと、
「あ、きょ、今日もお仕事お疲れ様でした」
営業スマイルから、私を視界に捉えた途端に、一日の仕事の疲れを吹き飛ばす柔かな笑顔と、透き通った高い声。
「ええ、ありがとう」
弁当屋(ほっこり屋)の一人娘。長い黒髪を後ろできゅっと結んだ人見知りだけど笑顔の可愛い店員さん。
ネームプレートには加藤(かとう)の文字。下の名前は、友香(ともか)と教えてくれた。私と同じ香の文字が入っている素敵な名前。
悪質なクレーマーに絡まれていたところを助けてあげたら、震えながらありがとうございましたって何回も何回も。

その時から、私は友香ちゃんが気になり始め毎日仕事の帰りに遠回りしてこの弁当屋に通った。いつしか、10も年が離れているっていうのに好きになってた。
ファッション業界の女帝と言われた私が、彼女と出会って半年、やっと彼氏がいないことと、年齢を聞き出せてはしゃいでしまうとは。

私は28歳、友香ちゃんは18歳。こんなおばさんに好かれているとは思っていないんだろうなこの子も。
私と友香ちゃんとの会話はお弁当を買う時の業務的なやり取りのみ。友香ちゃんが人見知りなのもあるけど、私も彼女と何を話したらいいかわからないから。
「あ、あの、財前さん」
「え?な、何かしら」
って思っていたけど、今日はちょっと違うみたい!何?顔を赤らめてどうしちゃったの?
「今日、ネイル、違いますね」
会社の人誰も気が付かなかったのに!今日は気分を変えていつものパープルからバイオレットのネイルにしたんだっけ。
「そ、そちらの色もお似合いです」
「あ、ありがとう」
こんなことで、こんなに嬉しいなんて。髪をかき上げてその手で指を2本立てる。
「ステーキ弁当2つ」
今日も一番高いお弁当を買って帰る。
今日は2つ。舞い上がって2つ。

作家コメント
お互い一切触れあわないこういう百合もどうでしょうか
無断転載・複製・翻訳を禁止しています!
当サイト内のすべての絵と文の転載はご遠慮ください。 無許可の転載、複製、転用等は法律により罰せられます。発見した場合は使用料を請求させていただきます。
1

コメントを残す