転校初日は何度経験してもものすごく緊張する。
──目立ち過ぎず、でも明るく親しみのあるキャラに見られるように。
転校するたび、自分がそもそもどんな性格だったか忘れるくらい、演じてきた。
毎回、制服の着方、髪を結ぶゴムの太さ、靴下のポイント刺繍柄まで気を遣って、どうか平和な学校生活が送れますようにと願いながら登校初日を迎えるのだ。
かおりと出会ったのは中学1年生の二学期初日、転校した日だった。
私たちは同じクラスに配属された。
始業式の中で転入生全員が全校生徒の前で紹介された後、担任にクラスへ連れられていく時、かおりを見ると身体の前で組みあわせた手が震えていた。
「緊張してる?」
小声で聞いてみると、唇を噛んで小さく頷いた。
「私も。でもがんばろ?」
彼女が唇を少し緩めて可愛らしく微笑み、頷いた。
その名札に「佐伯かおり」と書かれていた。
幸い、クラスの女子達は緩い雰囲気で、私とかおりは席も近かったのでそのまま二人で大きなグループに受け入れられた。
お互いの家も転勤族が利用するマンション群の中にあり、朝と帰りの通学も一緒。
二人になると気が楽だった。
転入生なんて、最初は注目されても結局は地元の幼なじみ同士の絆には入っていけない。
2年くらいして転校して行く時は、いつまでも親友だよなんて泣いても、すぐに文通も途絶えていく。
「親友」「ずっと友達」という言葉のはかなさ、軽さを身をもって体感してきた。
でも、地元に残る子たちはまだ、またいつかその場所へ行ったなら会うことは出来るだろう。
転校生同士は、一度すれ違ったらもう二度と会うことはない。
お互いに親の仕事で次の場所へ次の場所へと移っていくのだから、住所を追うこともできない。
どちらかが転校したらそれで終わり。
かおりと仲良くなるほど、その考えが脳裏にちらついて苦しくなった。
ずっと仲良くしていたいのに。
2年後、中3の3月、親友となっていた私たちは同時に転校していくことになった。
私たちはその時、泣きながらある約束をした。
かおりは涙を流しながら、「絶対守る」と言った。
私もそう誓った。
本物の親友ならきっと叶うと信じて。
4年後の4月。
入学式が行われる大学の正門の前で、私はかおりを待っていた。
あの時誓った。
──高校までは、親の都合でどこになるか分からないけれど、大学は、私たちの意志で決めよう。
──ずっと親の都合に振り回されてきて、友達と断絶されてきた私たちが自分で進路を選べるようになった時、お互いがいる場所へ行こう。
桜並木の中を、美しく成長したかおりが歩いてくる。
私を見つけた彼女は、満開の桜のような笑顔を見せた。
