えいな「ホワイトデーのお返しは」

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実紗先輩の横顔を眺めているのが好きだった。アーモンド形の綺麗な瞳、通った鼻筋、薄い唇。それはどれも完璧で、私はずうっと実紗先輩だけを見ていた。
バスケ部に入ったものの、全くバスケの才能がないことに気が付いた私は、それでもマネージャーとして部に残ることをすぐに選んだ。実紗先輩のことを近くで見ていたかったから。先輩は私と同じくらい小柄なのに、抜群の瞬発力とバネでドリブル、パス、シュート、どれもすごく上手だった。みんなが実紗先輩のことが好きだったから、私は影でひっそりと思っていることしか出来なかった。
「祐未花、ちょっといい?」
渡り廊下で先輩にそう声をかけられたとき、私は心臓が止まるかと思った。部活中でもないのに先輩が私の名前を呼ぶなんて今まで一度もなかったから。なんですか?と聞けば、アーモンド形の瞳が鋭く歪んだ。
「あんた、岸谷先生にチョコあげたわけ?」
怒りの滲んだ声だった。岸谷先生というのは若い体育の男の先生だ。爽やかで人当たりのいい人気者で、彼が体育館にやってくる時、実紗先輩が惚けた顔でそちらを見ているのを何度目にしただろう。
「部内でさ、バレンタインの時、本命のチョコ誰かあげる予定ある人って話の時に祐未花何も言ってなかったじゃん。なのに影でそうやって渡してたんだ。よりによって岸谷先生に!」
私は友人の料理部の子のバレンタインスイーツ作りを手伝って、それをみんなで職員室の先生達にも配った。カップケーキを一つ、岸谷先生に手渡したのは確かに私で、彼はホワイトデーの今日、律儀にお返しをくれたのだった。岸谷先生のファンは多いから、あの時職員室に居合わせた生徒の誰かが噂か何かを広めたのだろう。
「何かいいなよ!?」
黙っている私を実紗先輩は瞳に涙を溜めながら睨み付けてくる。すいませんでしたと頭を下げると、先輩は恨みを込めたような声で言う。
「あたしは岸谷先生に渡したかった。でも生活指導の浅沼に見つかって取り上げられた。あんたは部活では何も言ってなかったくせに、料理部の子達と合法的にチョコ作って、それでしれっと渡しに行っちゃうんだね。ずるいよ。あんたが岸谷先生からお返しなんてもらう権利なんてない!!」
無茶苦茶な話でほとんど八つ当たりのようなことだった。歯をギリギリと言わせて私に理不尽な怒りをぶつけている彼女は、今まで見たことがないくらい情けない顔をしている。いつもよりもずっと素敵だ。あの男のことになるとどこかおかしくなる先輩のことを愚かしくも愛おしいと思う。
でも実紗先輩、バレンタインの日、私はちゃんとあなたに言ったんですよ?私の本命チョコ受け取ってくださいって。渡した生チョコをあなたは「愛しい後輩からこんなに愛されて幸せ者だわー」とか言って笑って貰ってくれたじゃないですか。あの時私がどれだけ勇気を振り絞ったと思います?私にはあなたからお返しをもらう権利があると思うんですけど、どうですか?
でもこんな風に実紗先輩のとっても可愛い泣き顔を見られたので、これをお返しとして受け取っておきますね。好きですよ、先輩。これからもずっと。

参考 えいな作者pixiv
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