えいな「リンドウの花が綻んだなら」

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「リンドウの花言葉って、色々あるんだね。誠実、正義、高貴。全部高山さんにぴったり」
私の手元のスマホ画面には紫色の花が表示されていて、更に花言葉の由来や、花の持つ薬効の説明が続いている。それらを部分的に読み上げて、私は高山さんに向けて人の良い笑顔を見せた。
高山凛道さん。50音順で並べば私の一つ前になる。クラス発表で初めて名前を見たとき、何て読むんだろうと思ったし、字を見ただけだと男子なのか女子なのか分からなかった。始業式を終えて教室に入り、前の席に座ったその子はあまりにも綺麗な艶々のロングヘアで、整った、まさに凛とした顔立ちの女の子だった。お家がお寺らしいとか違うよ呉服屋だとか色んな噂があるけどよく分からない。彼女がクラスメイトと全然話そうとしないからだ。
高山さんは読んでいた本の端からちらりと私の方を見たけど、すぐにまた視線を戻してしまった。その瞳は冷ややかで愛想笑いの欠片もない。急に名前のことなんか言ったのがいけなかったんだろうか。名前は他ならぬ彼女自身のものだから、その話題なら何か返ってくるのかもと思ったのだが検討違いだったようだ。もしかしたら嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。
「急にごめんね、あの、今の忘れて」
アハハと苦笑いを浮かべて言ってみたが、高山さんの表情はさっきと同じだ。冷たくて、綺麗。
「竹谷さんは、なんでここにいるの」
小ぶりな唇から突如声が発せられたので私は肩をびくつかせた。高山さんから質問を受けるなんて思いもよらなかったので、すぐに頭が回らない。ひとまず、高山さんとお話してみたいなーって思ってと笑顔を貼り付けながら答えた。すると彼女は、そう、と短く言って本を閉じる。
「いつも一緒にいるグループの人達にハブられたから何となく私に話しかけたのかと勝手に思ってた。ごめん」
冷たい瞳の中に真摯な謝罪の気持ちが見えて、私は狼狽えた。本当言うと高山さんの言葉通りだった。クラスの中で居場所を失くし、それでせめて誰かと一緒にいたい、一人になりたくないと、その気持ちだけで高山さんに声をかけたにすぎない。
「凛道って名前、わりと気に入ってるんだ。可愛いよりも綺麗な響きが好きだから。花言葉のことは知らなかったよ。ありがとう、教えてくれて」
「ううん、全然、その、ググっただけだし」
紡がれる感謝の言葉に居心地が悪くなる。さっき見たページには、リンドウの花にはもう一つ花言葉があるのだと書かれてあった。
悲しんでいるあなたを愛する。
私は高山さんに何を求めていたんだろう。あなたも友達がいないの?私もいなくなっちゃった、難しいよね人と上手くやるの、なんて話しながら傷を舐め合いたかったのだろうか。なんておこがましい考えなんだろう。
高山さんは誠実で、正義で、高貴で、私なんかとは全然違うのに。彼女の長い睫毛が柔らかく伏せられて、頬に影を落とした。彼女は微笑んでいた。それがあんまり神々しくて、その日から私は彼女から目が離せなくなってしまった。

参考 えいな作者pixiv
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