えいな「今日もまた言えなくて」

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「たとえばさ、インターネットとリアルとで距離感の違う人っているじゃん? 日常ツイートに常に何らかのリプくれるけどリアルでは大して仲良くない的な仕事繋がりの男の人。でもその人はリプ魔なだけで、そこに下心があるわけじゃないらしくて、それでもこっちはなんか違和感があるっていうか……そういうブロックしたりミュートしたりもしにくいとき、モヤモヤするんだよねー」
私が一気にそこまで喋ると、隣からはズズッと音がする。グラスの底にあと僅かしか残っていないアイスコーヒーをストローで吸い上げる音。ごくんと喉を鳴らして飲み干した有紗は、うんとだけ言った。
有紗はSNSをやっていない。だから彼女の返答が素っ気ないものになってしまうのは当然で、それなのにそんな態度にいちいち傷付いている私の方が悪いのだ。私は持っていたスマホをテーブルに雑に伏せて、自分の目の前にあるフラペチーノをずいと吸い上げた。季節限定らしいいちご味のドリンクは、紫の薄暗い間接照明の中では鮮やかで映えるらしいピンクの色合いすらよく分からない。舌先が甘酸っぱいから確かにいちごなのだと思う。別に間違って別の味のがきていたとしてもそれでいいけれど。ここはフードとドリンク一人一品無料なんだし。
口の中のものを全部飲み込んでから、有紗の華奢な肩に頭を乗っけた。そうすると有紗はまるで仕方ないなぁとでも言うような手つきで優しく頭を撫でてくれる。この手はやがて私の身体中を這い回っていくことになるのだ。これまでそうやって何度も、私は彼女に与えてもらってきた。
私はお喋りで、それもどーでもいいことばっかり一方的に話してしまう煩い女だ。なのに大切なことはちゃんと言葉にできないでいた。
有紗、私の話退屈じゃない? いつも黙って聞いてくれてるけど大丈夫? 会ったら必ずこうしてラブホに来てるけど無理してない? 私ばっかり気持ちよくて良い思いしちゃってないかなぁ? 有紗、私あなたのこと相変わらず、好き……。
今日こそどれか一つは口にしようと思うのに、いざとなったら唇からは何も発せられなくて、気が付けばあなたのそれで塞がれている。蕩けた嬌声だけが口端から漏れ出していって、頭の中に浮かべていた事項が、熱いフライパンの上のバターみたいにぐずぐずに溶けて見えなくなっていく。
有紗がふっと笑って、親指で私の顎に触れた。紫色の照明でいつもより一層彼女の微笑みは艶めいて見えた。
「美香の口の中、いちご味」
熱い舌が私の唇をペロリと舐める。その瞬間、私の身体の奥底から強い欲望がせりあがってきて、消えかけていた事項は最初から何もなかったみたいに影も形もなくなっている。もう、有紗のことしか考えられない。痕が残るのを気にする余裕もないまま白い背中を掻き抱いた。

参考 えいな作家pixiv
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