ちはやは、長い片思いをしていた。
小学校六年生から高校二年生の今まで、同じ男子に片思いしている。サッカー部の二城君。
「告らないの?」と私が訊ねると、ちはやは首を振って「見てるだけでいいの」と笑った。
そしてその言葉通り、毎日教室からサッカー部の練習を眺めている。
その長い片思いに終止符を打ったのは、私たちと仲のいい晴香だった。
「二城、サッカー部のマネージャーと付き合ってるんだって」
校庭からボールを蹴る音が聞こえる放課後。
ちはやは暗い目をして、晴香の報告を聞いていた。
晴香は追い打ちをかけるように続ける。
「すごく仲いいんだって。順調だって。勝ち目ないから、もう諦めなよ」
長く沈黙した後、ちはやは弱々しく微笑んだ。
「そっか。ぜんぜん知らなかった。情報ありがと、晴香」
晴香は少しばつが悪そうな顔になって、ふいと教室を出て行った。
去って行くその背を見送るうちに、怒りがこみ上げてきた。
「ひどいよ、晴香のあの言い方」
ちはやを慰める意味もあって、ことさら怒ってみせたのに。
彼女はまた気弱げに笑って、晴香をかばった。
「怒らないであげて。晴香は私のこと心配して、言いにくいことはっきり言ってくれたんだから」
──お人好し。そんな性格だから、長い片思いが実らなかったんだよ。
そんな思いをこらえ、私は廊下に出る。
晴香にひとこと言わなければ気が済まなかった。
屋上に向かう階段の踊り場で、晴香をつかまえた。
「さっきの、あんな言い方ないでしょ。ちはやがかわいそうだよ」
腕をつかんでそう責めると、晴香は上目遣いに私を睨んだ。
その目が、涙で潤んでいる。
「だって、見てられないじゃん。告りもせずに、勝手に失恋してバカみたい」
その震える声にはっとして、私は言葉を飲む。
「ちはやのこと好きになる人なんて、いっぱいいるのに」
晴香は両手で顔を覆う。
「……なんで二城じゃなきゃだめなの?」
ちはやと晴香。
恋が実らなかった、私のお人好しの友人たち。
「そうだね。私も見てられないよ」
嗚咽を漏らす晴香を抱き寄せ、私は背中をそっと叩いた。
「ちはやも晴香も、ほんっと見てられないよ」
ようやく泣き止んだ晴香と教室に戻る。
入り口で、晴香が足を止めた。
夕焼けに染まる教室。
窓際の席に座ったちはやは、うつろな目で校庭を眺めていた。
晴香はすくんだように立ち尽くしている。
校庭からは、ボールを蹴る音やホイッスル、サッカー部員たちの歓声が聞こえていた。

でしさん、感想ありがとうございます!
広い行間に詰め込んだ物語を、拾い上げていただけてうれしいです!
次も頑張ります♪
しかく
しかく、なんですね。
こういう題名つけられるセンスが素晴らしいです。
行間がとんでもなく広いのに、ぎゅーーーーっと一言で狭めて心をつかんできます。
次回作も楽しみにしております。