「私が望んだことだから」
冴え冴えと空気の澄んだ暗い夜、リカはそう言って、わたしについて行く道を選んだ。
それが正しい選択なのか、わたしは保証できない。
だけど嬉しくて、
「今日からはずっと一緒だね」
と、またも保証できないことを言ってしまった。
「まずは電車に乗って、バスセンターまで行こう。
それから夜行バスで、知らない街を目指すの」
「それから?」
わたしの目元には大きな痣があり、足には歩くのもつらいほどの深い傷があるが、リカの身体には何の問題もない。
わたしはこの街を今すぐにでも出なければならない理由があるが、リカにそういったものはない。
なのにリカは、わたしについて行くという。
まるで、そうする以外の選択肢などないかのように。
「それから……」
『それから』とは言ったものの、計画に続きはない。
わたしは今朝リカに『家出をする』と伝えたが、具体的にどこへ行くかは考えていなかった。
なぜならわたしは『家出をする』と嘘をついて、リカの知らない場所で命を絶つつもりだったのだ。
「考えていないんでしょう。
あなたって、ちょっと抜けたところがあるから」
言いよどむわたしを見て、リカが笑った。
「だから代わりに考えてきた。
まず、行き先はここにしましょう」
ガイドブックを広げ、明確な目的地を指差す。
「生きましょう。
私たち、そのためにここを一緒に出るの」
まるで、わたしを一人で行かせたらどうなるか、すでに把握しているみたいに。
「これから行く先に、私たちの望む未来がある。
だから……」
リカが真剣に、懇願するような口調で言う。
わたしの望む未来。
それは平和で温かい、安心して眠れる暮らしだ。
だけどわたしは、一人ではあまりにも弱く、それを諦めようとしていた。
でも、二人なら。
もしかしたら、手を伸ばせば、案外あっさり、掴めるのかもしれない。
リカはそれを信じて、今ここにいてくれるのだ。
「だから、長生きしてね」
泣きそうな笑顔を向けるリカに、わたしは何度も頷く。
それからゆっくり、駅への道を一緒に歩いていった。
「ありがとう」