平井「卒業式におけるうつわ-ましろ-」

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泣いている生徒が多い。それもそうだ。今日は卒業式。境目となる日。もっとも、友達がほぼいないましろにとっては、退屈な行事でしかなかったが。
装丁だけはしっかりとした重い卒業アルバムに、ましろが写った写真はほとんどない。せいぜい部活の紹介写真くらいだ。修学旅行だって班活動にも最低限しか参加せず、カメラを避けた。茜と一緒に茜の友達グループに入れてもらっただけで、自分の友達ではないから、深く付き合う義理もない。課題ができればよかった。それを茜がどう思っていたかはあまり考えないようにしていた。
「好き」
そう言われた時の事は今でも鮮明に思い出せる。人生で初めて告白された瞬間だった。しかも、隣の席の女子だ。そんなことって現実にあるんだ、くらいにしか思わなかったし、そこからは友達関係までしか進んでいない。何回か一緒に出かけはしたけれど、手を繋ぐこともなかった。茜は繋ぎたかったかもしれないが、意地もあったのだろう、ましろに対してそんな意思を示したことなかった。
そして、そのまま卒業式。
「鈴木さーん、茜知らなーい?」
「え?知らない」
卒業アルバムに寄せ書きをしている人たちがかしましい教室、名字で呼ばれたましろは「茜の友達」に事実だけを述べて、教室を出た。3年間の積み重ねのせいとはいえ、ここはひどく居心地が悪い。
「んあっ、しろ」
「あ?」
用もないのにロッカーに向かって歩くと、そこには探され人がいた。よくわからないが動揺している。
「え、機嫌わる……」
「騒がしいの苦手」
「……そうだね」
空気が止まる。ましろは茜に用事はない。けれど茜は?
「ましろ……さん」
「はい、園田茜さん」
「なー!もう!他人行儀やめてってば!」
「えー?なに?」
「この後、予定、なかったら」
家に帰るまでの時間、私と一緒に、というのが、今の茜の限界らしかった。

作家コメント
一作目の投稿の二人の卒業式の話です。なんだかんだうまくやっているといいです。
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