新條にいな「ことしの素晴らしいものすべて」

新しい年の幕開けは静かなものになるはずだったが、三日の夜に予想外のことが起きた。
恋人の実夜(みや)ちゃんが、珍しいものを買ってきたのだ。
「この子、花澄(かすみ)に似てなぁい?」
今、実夜ちゃんが指さす先には、一匹の小鹿の絵がある。
「かわいくて思わず買ってきちゃったの」
それからその絵が描かれているのは、白いワインのラベル。
つまり実夜ちゃんは、ジャケ買いをしてきたらしい。
「この、ちょっと困った顔してる感じが、花澄っぽいって思って」
実夜ちゃんと初めて会った日、わたしは確かに困っていた。
当時のアルバイト先で、おかしなお客さんに絡まれていたところ、助けてくれたのが実夜ちゃんだったのだ。
「『どうしたのかな?』って、気になっちゃったんだよねぇ」
実夜ちゃんは、あの時から今も変わらずいつも気遣ってくれて、とても優しい。
ところで、実夜ちゃんはお酒が飲めない。
なのにボトルでワインなんて買ってしまって、いったいどうするつもりなんだろう。
「気が付いたらカゴに入れちゃってたの。だから、たまには飲んでみる!」
実夜ちゃんはこうして、その夜、わかりやすく酔った。
ごくわずかな量で簡単に顔を赤くし、わたしに、これまでしたこともないようなキスをした。
「花澄、だいすき」
だからその夜はずっと予想外だった。
ベロとベロをこすり合わせるみたいなキスなんて、今までしたことがない。
そのまま根元まで持っていかれるように舌を吸われて、息が苦しくて、涙目になるくらい何度も求められて、びっくりしたこともない。
そのあいだ、ずっと薄目をあけられて、今わたしがどんな顔になってしまっているか、とろとろの目で観察されたこともない。
実夜ちゃんはいつもわたしを気遣ってくれて、優しい。
だから驚いた。もう何年も一緒にいる実夜ちゃんにこんなドキドキする一面があって、わたしはもっとそれを欲しいと思っていること。
次の朝先に起きて、生まれて初めてつけられたキスマークを確認してうっとりして、いったいこれは何日くらい残るものなのか調べて。
今、スマホを握りながら『消えちゃう前にまたしてほしい』なんて思っていることに。
「……あと何回分くらいあるんだろう、あのお酒」
わたしに似ているらしい、あの小鹿ちゃんのおかげで、今年は意外で素晴らしいものにたくさん出会えるかもしれない。
わたしは服も着ないまま起き上がると、テーブルの上の、まだたくさんあるワインを手に取る。
それから、この分だけ見られるかもしれない未来を想像して、一人にやにやした。

作家コメント
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参考 新條にいな作者Twitter
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