黒澤春希「雨女」

大切な日には、いつも雨が降る。
遠足の日は基本的に雨。
家族旅行も修学旅行も雨。
そのイベントを楽しみにすればするほど、雨量が増した気がする。

「ねえ、もしかして今日のランチも楽しみにしてたの?」
「だって、久しぶりに話せるからさ」

私は素直に答えた。
窓の外を見ると急に曇りはじめ、雨足が近づきつつあった。
ランチに誘ってくれた同期が笑っている。

優しくて包容力のある彼女は、私の中で、一番大切に付き合いたい同期だった。
本当は、週末にある共通の先輩の結婚式についての打合せも兼ねていたのに、気付いたら普段通りの会話になって、打合せなんて何も進まなかった。

二人で頼んだ『今日のパスタランチ』がテーブル運ばれてくる。

「それって、あなたが楽しみすればするほど雨が降るのよね?」

同期がスプーンを添えず、フォークだけでペペロンチーノをくるくると巻き取りながら言った。

「そうだと思うけど」
「ねえ、先輩の結婚式、楽しみ?」
「楽しみだよ」
「そっか。じゃあ、雨、降るよね」

同期はそう言いつつ、フォークを動かしてパスタを頬張る。
私には、彼女のその動作が、ほころんだ口元を隠すためのように見えた。

しっかりと確認したことはなかった。
でも、同期が先輩を好きだったことには気づいていた。
同期があまりにも上手に隠すので、それは私しか気づいてなかったと思う。
いつからだったか、同期の雰囲気が急に柔らかくなったことがあった。
もしかしたら、その頃、同期は先輩への想いを遂げたのかもしれない。
同じ頃、先輩の雰囲気も変わったから。

「先輩のウエディングドレス姿、綺麗だろうね」
「そうだろうね」
「興味ない?」

私の問いに、同期は少し肩をすくめただけで返事をしなかった。
同期の表情は読めなかった。
読ませないようにしている時点で、答えを貰っている気がした。

先輩が結婚するということは、そういう結果になったということだ。

「私ね」
「ん?」
「先輩の結婚式、すっごい楽しみにするからね」

私は同期の目を見て言った。

「・・・ありがとう」

同期は目を伏せて、少しだけ悲しそうに笑った。

私は決めた。

週末は傘を忘れずに持って行こう。
その傘をさして、雨の中を同期と一緒に帰ろう。
そして、雨が上がったら、晴れた空を彼女と一緒に見上げよう。

だって私は、雨を降らせるけど、虹も連れて来られるのだから。

作家コメント
雨の日、同僚とランチを食べた帰りに浮かんだ話です
参考 黒澤春希作者Twitter
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