結城紫乃華「シーツの海に溺れてしまう」

 貴女はいつも輝いていた。ブルネットの髪、凛と伸びた背筋、そして鮮やかな菫色の瞳。私にはいくら望んでも手に入らないものを彼女は持っている。それでも彼女は、女として生まれたことをひどく後悔し、そして申し訳ないとさえ思っているのだ。
 私にはそれが、ちょっとは理解できるけれど、でも納得はできなかった。
「そうしていると女性そのままね」
 朝、いつものように白いシャツを羽織ったアデルの背中を見ながらそう呟いた。その言葉に驚いたように振り向いたアデルは、その後ちょっとだけ困ったような顔をする。いつからだろう、彼女がこんな風に人間らしい表情をするようになったのは。
 出会った頃は感情なんて持っていない人形みたいだったのに。
「一応、女性なんだ。これでも」
「男装をしているときは立派な私の旦那様に見えるわよ」
「そう振る舞うように躾けられたからな」
「どっちも好きよ。ねえ」
 まだ体温の残るシーツにアデルを引きずり込む。本当は早く着替えないといけないってことはわかっている。私も、いつまでもベッドに埋もれているわけにはいかない。アデルは自分で着替えができるけれど、私はドレスを着ないといけないからだ。
 そんなのわかっている。わかっているけど。
「私は好きよ。この髪も、目も、口も、鼻も」
「見た目だけ?」
「もちろん、中身も」
 優しく髪を撫でる左手に口付ける。そこじゃないだろう、と分かりやすく拗ねた表情が面白くて、声をあげて笑った。
 もうすぐ隠されてしまう白い肌に唇を寄せて、真っ赤な跡を落としていく。耳元に溢れた声が蕩けるほどに甘やかで、ああ、やっぱりこの人は美しいなと朝日の中で微笑みあった。

作家コメント
結婚相手は、男性として生きてきた女性でした。
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結城紫乃華作者WEBサイト

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