ATライカ「気持ち」

 たった一つの願いが叶うのならば、人を一人生き返らせてほしい。たった一人でいいからと、何度そう思ったことだろう。そんな心情とは裏腹な真白い入道雲が立つ晴れの日、私は彼女の墓に向かう坂を額を汗に上っていた。
 左手には彼女の好きだった飲み物と菓子が入った袋。右手には菊などの仏花と、一等鮮やかで彼女が好きなキンセンカの花束を持っていた。
 墓地の管理者にいつものように挨拶をし、柄杓と桶を借りる。私は持参した手拭いを桶に突っ込みながら、水を溜める。水がたまる間に墓と往復できるので荷物を先にそちらに置いて、そして桶の所に戻ってきたら、そこには一人の白髪交じりの男性が立っていた。
 彼女の父だった。居合わせるのは何度目かだった。義父は私を見るなり少し会釈をした、私もそれを返す。
 いつもならそれで終わりだけれど、今日は違った。
 彼が口を開き、入道雲が墓場に影を落とした。
「娘とは赤の他人のはずだ」
 急に暗くなったので彼の表情はわからない。
 でも、彼がどう思おうと、私の気持ちは変わらない。彼女への伝え方は変わっても、その一番根っこの部分は変わらない。
 目が慣れてきたと思ったところで、すっと太陽が顔を出した。その時、私はようやっと声を絞り出した。
「私にとって彼女は……太陽でしたので」
 私は目を瞬かせた。

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