鈴倉佳代「答えは最初から決まっていた」

「後輩A」
 入部して以来、あたしのことを先輩はそう呼ぶ。一度も、名前で呼ばれたことはない。
 新入生への部活紹介で壇上に立った彼女を見て、この部に入ろうと決めた。一目惚れだった、正直に言えば。堂々としていても大勢の前で発表することに慣れていないのか、声がかすかに震えていたところがかわいかった。最初の動機こそ不純だったが未経験だったこともあり、毎日が新鮮で楽しくて部活には真剣に取り組んだ。先輩と一緒にできると思えばなおさら。
 ある日、何故先輩があたしのことだけを「後輩A」と呼ぶのか訊いてみた。ほかの先輩たちからは呼ばれないし、ほかの人たちも先輩からそう呼ばれるのを聞いたことがない。
「さて、何ででしょう? 私からは何も言わないから当ててみてよ、かわいい後輩A。部活でも言っていることだけれど、まずよく周りを観察してみることだよ」
 そう言って先輩はいたずらを仕掛けた子どものような顔で笑った。
 それからあたしは以前と違い、先輩のほかに周囲もよく見るようになった。ほかの後輩に話かける先輩、あたしに話かける先輩、ほかの先輩に話しかけるあたし、先輩に話しかけるあたし……。そうして気がついた。なんだ、答えは最初から決まっていたのか。
 試験期間中で部活動が禁止のため、誰もいない部室で先輩に、自分で質問したことの答えを自分で言う。先輩は好きなものにイニシャルで名前を付ける癖があること。例えば、あたしに見せたことがあるお気に入りの熊のぬいぐるみB。あたしの名前がAではじまること。先輩はあたしを好きで、あたしも先輩が好きで、できれば彼女になりたいこと。
 この際だからと最後は勢いで言ってしまった。先輩の反応を窺う。瞳を輝かせ嬉しそうな顔をした先輩が口を開いた。
「……これからは、彼女Aって呼んでいい?」

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