藍瀬青「シンデレラストーリー」

 振るえばたやすく命は尽きた。死神の鎌。何人たりともその刃から逃れることはできない。それはひどく退屈だった。収穫を約束された土地で、垂れた稲穂の首を落とす。狩りじゃない。誰にでもできる。これは罰なのではないかと彼女は考える。わたしは生きていたころ罪を犯し、罰として苦行を強いられているのではないだろうか。
「魔女様?」
 だから、赤い目を輝かせて少女がそういったとき彼女は戸惑い――喜んだ。
「ばぁか」少女の額を指で弾く。「こんな物騒な得物を持った魔女がいるかよ」
「えもの?」
 少女が首を傾げると、左目に巻かれた包帯に黄緑色の染みが滲んだ。この子はほとんど目が見えていないのかもしれない。彼女は改めて少女の全身を見つめた。包帯が巻かれているのは左目だけではなかった。首、両腕両足、そして間違いなくぼろで隠されている部分にも変色した包帯が爛れた皮膚のように張り付いているはずだ。
「『えもの』ってのは、あー、なんだ、凶器ってこった」
「きょうき」少女は淡々と繰り返した。「じゃあ、やっぱり魔女様だ」
「あぁ?」
「あたしを殺してくれる魔女様」少女は夢見るように微笑んだ。「ずっと待ってたの」
「わたしもだよ」彼女は鎌を少女の首筋に当てた。「ずっと待ってた」

 三日月の夜、赤い目の死神が大鎌を振るう。その顔には抑えきれない笑みが浮かんでいる。楽しい。この手で死を招くのは楽しい。人間を死に誘うのはたまらなく愉しい。赤い目の死神に生前の記憶はない。ただ、死神という在り方が自分にふさわしいと理解している。感謝している。誰に対しての感謝なのかはわからないが、
(――魔女様)
 その相手とまた会いたいと思っている。
 また会いたい。また、殺し合いたい。
 記憶はなくても、それだけはなんとなく覚えている。果てなく「彼女」と殺し合ったことを。その結果としていま自分がここにいることを。
 赤い目の死神は輪廻のからくりを知っている。いつか現れるだろう「彼女」を待つつもりでいる。「彼女」がどんな姿になっていても、どれだけ年月が経っていても、求める相手は必ずわかる。この大鎌をたやすく振るえる人間。魂がこの死神の鎌と同調する女性。ガラスの靴に合う女性を探すように、赤い目の死神はその「たったひとり」を待ちつづける。なぜなら―― なぜだろう? 思い出せないが、その女性が自分を救ってくれたことは確かだ。根拠はない。でもわかる。彼女と出会えば殺し合いになるだろうが、それはどうでもいい。ドレスを赤く染めてシンデレラとシンデレラは踊るだろう。
(――ずっと待ってる)
 大時計が深夜零時を告げる。赤い目の死神は三日月の刃で闇を切り裂き、
 跳んだ。

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