えいな「ひなげし色」

月明りが部屋を優しく照らしている。
彼女が写る写真立ての縁を指でなぞった。こうするのが最近はもう癖になったみたい。
そして自分の指先に何となく視線を移して、またマニキュアが剥がれかけているのに気づいた。
これは、私と彼女の絆だ。なのにどうしてこうもポロポロ剥がれ落ちていってしまうんだろう。
私はため息をつきながら、今日もマニキュアを塗り直す。
はみ出して、整えて、またはみ出す。いつまでたってもやっぱり上手くいかない。
あの子と違って、私は超がつくほどの不器用だから、すぐにこうやってダマになってしまう。
それでも、何度も、何度だって塗り重ねるのだ。
この鮮やかなひなげし色を、あの子はパールオレンジだってずっと言っていたけれど、私にとっては紛れもなくひなげし色だ。
あの子、ひなこの、ひなちゃんのひなげし色。
私が持っているマニキュアはこの1本だけで、あの子からの誕生日プレゼントだ。
あれはまだ付き合う前。
「私が不器用なの知ってるでしょ、こういうの絶対ちゃんと塗れないんだけど」って拗ねてみたら、
「じゃあ塗ってあげるよ」って、そっと私の手を取った。
小さくて柔らかいあの子の指が、私の爪を優しくひと撫でして、それから丁寧にエナメルを塗っていく。
彼女の色に染まっていく指先を、私はドキドキしながら見つめていた。
その瞬間を、今でもはっきり思い出すことが出来る。

夜風で指先はすぐに乾いて、私はその手でお線香に火をつけた。ゆらゆらと白い煙が揺れる。
遺影代わりの写真立ての中で笑っている彼女に手を合わせる。
それからそっと確かめるように、自分の爪の赤みがかかったオレンジの光沢にキスを落とした。
まるで彼女に口づけするように。
指先は熱かった。何だかあの子の存在が今でもまだここにあるかのような、そんな気さえして。
私がこうしてひなげし色を塗り直す度に、あの子はこの世から色褪せることが出来なくなる。
ずっとずっと一緒だから。
何度だって塗り直してあげるからね。

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えいな作者pixiv

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