むつき「夏の目眩」

 夏の夕暮れはまだ日が高い。閉め切った音楽室も暑かったけど、生ぬるい風が吹く外もやっぱり暑い。焼けた地面は何もかもを溶かしそうでただ、クラクラした。
「今、帰り?」
 声が聞こえて振り返ると、弾むように階段を下りる同じ部の先輩がいた。セーラー服からのびる色白の細い腕と足が私の目を奪い、そして心を動揺させた。
「はい」
「今日も暑かったね。喉、カラカラ」
 喉。
 そのワードに心臓が跳ね、乾きすぎて出ない唾を思わず飲み込んだ。
「……私もです」
 学校から駅へと向かう道沿い、広い駐車場の一角に設置された自販機の前で先輩が立ち止まる。黒猫柄のがま口財布からお金を取り出すと、先輩は迷わずレモン風味の炭酸飲料を買った。続けて私も買おうと財布からお金を取り出していると
「はい」
 と買ったばかりのペットボトルを私に差し出す。
「え? あ……ありがとうございます」
 軽く頭を下げ汗をかき始めているペットボトルを受け取ると、先輩は駅へ向かって歩き出した。
「え、あの、先輩の分は?」
 どうしたらいいんだろう、と自販機の前でまごついていると
「二人で飲も。私、そんなにいらないから」
 と微笑む。
 じゃあ、と蓋を開け先に一口飲むと、強烈な酸味と炭酸に思わず眉をしかめた。喉を潤すどころか余計喉が痛み、思わず喉に手を当てる。
「炭酸、苦手?」
 よほど可笑しかったのかクスクス笑いながら、私の手からペットボトルを取ると
「あ……」
 飲み口を拭こうと思っていたのに、先輩はなんの躊躇もなく口をつけ、勢いよくペットボトルを傾けて顎を上げた。

 クラクラする。
 この暑さにも、この炭酸にも、そして先輩にも。
 
 飲み終えてふぅ、と息をつくと
「行こ」
 と私の手を掴んだ。先輩の手は華奢で強くて、そして熱い。
「……冷たくて気持ちいい」
 そう小さく漏らすと嬉しそうに私を見てまた、顎を上げた。

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